残暑厳しい8月下旬、大阪や京都の町角には色鮮やかな提灯が掲げられ、子どもたちのにぎやかな声が響き渡ります。夏の終わりを告げるように行われる行事、それが地蔵盆です。
子どもたちを守る、辻のお地蔵さま
地蔵盆とは、関西を中心に営まれてきた地蔵信仰の行事で、地蔵菩薩の縁日である旧暦の7月24日や、あるいはその前後の8月23、24日ごろに行われる地域が多いといわれます。
大阪では、町の地蔵堂やお寺に祀られた地蔵尊のまわりにテントを設け、提灯で華やかに飾り付けられた地蔵尊の前に、お菓子や果物などがお供えされます。ところによっては、夕暮れになると子ども向けのヨーヨー釣りや輪投げの夜店が並び、人形劇や数珠繰り、盆踊りが披露されるなど、まるで夏祭りのような熱気に包まれます。子どもたちが主役となる、にぎやかなひとときです。
「地蔵祭」から「地蔵盆」へ
地蔵信仰が人々に広まったのは平安時代、末法思想とともに民衆に受け入れられ、根づいていったとされます。現在の地蔵盆は、江戸時代には「地蔵祭」や「地蔵会」と呼ばれ、京都や大阪を中心に行われていました。
たとえば、『難波鑑』という資料には、お地蔵さまへのお供え物を前にお参りする子どもや赤ちゃんを背負った女性の姿が描かれています。お地蔵さまは特に子どもたちの守り仏として信仰されてきましたが、そのころからすでに、子どもたちの行事として「地蔵盆」の原型があったことがうかがえます。
夏休みを締めくくる、子どもたちのお楽しみ
地蔵盆で子どもたちが心待ちにしているのは、やはり「お供えのお下がり」です。古くは、紅白のお餅や落雁といった和菓子がお下がりの定番でしたが、昭和の後半には、駄菓子の詰め合わせが人気となり、いつしかそちらが定番になっていったようです。
わたし自身も子どものころ、ビニール袋いっぱいの駄菓子を友達と一緒に食べた思い出があります。袋からひとつひとつ取り出しては、友達と見比べながら食べて、笑い合うひとときは、何よりも嬉しい時間でした。
八月下旬、夕暮れに吹く風は少しずつ秋の気配を帯びてきます。地蔵盆は、子どもたちにとっては夏休み最後の思い出であり、大人にとっては地域の絆を確かめる場でもあります。
今も大阪や京都の町には、子どもたちを見守るお地蔵さまが静かに祀られています。その前に集い、笑い合う人々の姿の中に、地蔵盆という伝統行事がこれからも息づいていくことでしょう。

清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
