こんにちは。星空案内人の木原です。
じめじめと暑い日も増え、本格的な夏到来といった時期になってきました。雨模様が続いた時は出番が少ない星空でしたが、夏に向かって元気よく姿を現しはじめました。はくちょう座にさそり座と有名な星座が多く昇る季節ですが、今回は夏の宙でひときわ大きく輝くへびつかい座を紹介いたします。
へびつかい座は、さそり座の北側に位置し、7月末の20時頃には南の宙の高い位置で輝いて見えます。α星のラス・アルハゲは、夏の大三角をパタンと折り紙のように反対側に倒した位置で輝いていて、へびつかい座を見つけるときの目印になります。星座自体は五角形の姿で、五角形から横に伸びるへび座(尾と頭)を含めてみると、とても大きな姿に見えます。
へびつかい座のモデルは、医術の神アスクレピオスです。幼い頃から賢かったアスクレピオスは、ケンタウルス族で一番の賢者であるキロンから医術を学び、たちまちギリシャで一番の名医になりました。アスクレピオスは人々の病気を治すうちに医術を極め、死者さえも生き返らせるようになりました。
これに人々は驚きますが、最も衝撃を受けたのは冥界の王ハデスです。死者が冥界に来なくなれば、冥土の国は衰え、地上が人間で溢れてしまい、世界の秩序が乱れてしまう恐れがあったからです。ハデスは全能の神ゼウスに解決を求めました。ゼウスも死者が蘇る状況は好ましくないと判断し、アスクレピオスのもとへ稲妻を落とします。そして、アスクレピオスは人々に惜しまれながらも天に昇っていきました。
実際の星空では、アスクレピオスがヘビを抱えているように輝いて見えます。なぜヘビを抱えているかは明らかではありませんが、ヘビは不老不死の象徴だったからではないか?という説があります。命を持って生まれたものは必ずその命を全うする、という自然の摂理さえも覆したアスクレピオスの人生を表しているようです。医術も発展途上だった古代で、永遠の命を夢見る人の葛藤がへびつかい座の神話に込められているのかもしれませんね。
ちなみに、アスクレピオスの師匠であるキロンはいて座のモデルです。アスクレピオスの後にキロンは夏の夜空に昇ってきます。弟子の姿を、師匠は後ろからそっと見守っているのかもしれません。いて座のお話もよかったら読んでみてください。偶然なのか、キロンもアスクレピオスと同様に、その腕を惜しまれながら天に昇った英雄でした。
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