こんにちは。星空案内人の木原です。
夕方、帰り道や散歩道などで「夕日が綺麗だな」と感じたことはありませんか。
濃い橙色に染まった宙に浮かぶ、眩しいけれど見つめたくなる夕日を見て、「今日も頑張ったな」「楽しかったな」といろんな感情に浸った経験は、誰でも一度はあると思います。
夕日を堪能したあとに目的地に向けて歩みを進め、宙の暗さが一段階あがり、紺色の宙が迫ってきた頃にもう一度ふと宙をみつめると、ひときわ輝く星が見つかることがあります。「あれはUFO?」「飛行機かな?」と観察していると「あれは星だ」と気付くでしょう。その星の正体は様々ですが、夕暮れ後の宵の時間帯に西の宙に輝く「宵の明星」と呼ばれて親しまれている星があります。
宵の明星と呼ばれる星の正体は、金星です。金星は私たちが住む地球の隣の星。地球と同じ岩石質の星で、大きさや密度も近いことから、「地球の兄弟星」とも言われています。
兄弟と言うくらいなら、金星人がいるのでは?と思うかもしれませんが、金星の環境は地球と全く異なります。地表の温度は約460℃、気圧は90気圧(地球の水深の900m相当)という過酷な環境。大気のほとんどが二酸化炭素で、その上空には厚い硫酸の雲が切れ目なく覆っています。探査機が着陸するには難易度が高く、硫酸の雲が目隠し代わりになっているため宇宙空間からの観察も制限があり、お隣さんなのに謎が多い星です。
一方で、地球上からはひときわ明るく見える星のため、昔から私たちの関心を集めてきました。日本では、平安時代に清少納言が枕草子に綺麗な星々として「星はすばる。彦星。夕づつ。よばい星、すこしをかし。…」と綴ったことが有名です。
ここに登場する「夕づつ」が宵の明星です。さらに日本書紀には、天津甕星(あまつみかぼし)という神様が登場します。天照大神が地上を統治する際に最後まで反抗した悪神として伝わる神様で、所説はありますが、モチーフになった星のひとつに金星が挙げられています。天津甕星が何の星を示すのかは未だ不明ですが、宵や夜明けの太陽の光が弱い時間帯に宙で明るく輝くため、そう捉えられたのかもしれません。
宵の時間帯に、我こそが宙の主役と輝く明星。その強い輝きは、地球に近いだけでなく、自身を包む硫酸の雲が太陽の光をよく反射することも一因となっているようです。複数の要因が重なって、いま、この時の宵の明星を宙に見ることができているのです。

