露草のブルーが好きだという方、かなり多いのではないでしょうか。
冴え冴えとした青。のぞきこめばこむほど深く、吸い込まれそうな澄んだ青。これぞ、縹色(はなだいろ)です。
縹色は藍染めの過程として出てくる色として知られていますが、元々はこの露草の色を表した色で、単純に「花色」といったり、「月草色」「露草色」「千草色」などさまざまな名がつけられ、長い年月、日本人に愛されてきたザ・ブルーです。
堅牢な藍になる前に一瞬、顕れる、もっとも華やいだ明るい青。
かさねの色目「月草」は表が縹(はなだ)、裏が薄縹(うすはなだ)で、着用時期は秋になっています。実際は6月頃から咲き始めているのですが、季語としての露草も、やはり初秋のものとされています。
季語というのは面白いもので、いつ見たものがもっとも心を動かされたか、という先人の人々の記憶の集積によって、こまやかに分けられているようにおもいます。後世の人々も、ああ、なるほどそうだ、と思うことで受け継がれていくもので、誰も気づく人がいなければ、いずれその季語は消えてしまうでしょう。
季語は決して規則ではなく、感性の共感です。やはり露草は秋の初め、朝露がたっぷり降りる頃にみるのがもっとも味わい深く、心に響く、、、かどうかはどうぞ実際にみて、確かめてみてください。
実際、私の田んぼでも9月に入ってからの方が露草は俄然、数が多くなり、畦は朝露にたっぷりと濡れる赤まんま(犬蓼)や露草のブルーで埋め尽くされ、その色合いが私にとってはおなじみの初秋の風景になっています。
露草は、かつて月草(つきくさ)と呼ばれていました。万葉集には月草の名で多く登場します。昔はこの花の汁で布や紙を染めたので「着き草」や、臼で搗く「搗き草」が転じたとされています。友禅染めの下絵に使われている青花(あおばな)は、この露草の栽培品種です。
月草というと、まるで前夜の月のしずくを宿したかのようにも感じられ、なんとも素敵な名前です。露草の葉に宿るつゆは大気の結露ではなく、自らの水孔から排出した水であることが多いのですが、露を宿す草花の中でも、ことさら愛されてきたということでしょう。
早朝に咲いて昼過ぎにはしぼんでいく一日花であることと、儚く消えてゆく朝露のイメージなどが重なって、月草は次第に露草と呼ばれるようになったようです。
露草は虫が活発に動く朝に咲いて、昼過ぎには閉じてしまうのですが、それは自家受粉をするためでもあります。
昼を過ぎると、下に長く伸びた雄しべと雌しべをくるくると巻くように閉じていき、しぼんだ花の中で自ら受粉するという巧みなしくみです。なにしろ花が咲くのは一日だけ、しかも午前中だけですから、必ずしも虫がやってこなくても大丈夫なように進化したようです。くちゅくちゅとしぼんだ花は群青色になっています。
月草の明るく輝くようなブルー。朝露とともに閉じていく一日花の、その日限りのブルー。これからの季節、ぜひのぞいてみてください。
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