染織家の吉岡更紗です。私は、京都で200年以上続く染屋「染司よしおか」の六代目で、いにしえから伝わる技法で、植物を中心とした自然界に存在するもので染色をしています。
世界中でも類をみないほど数が多いといわれている、豊かな美しい日本の色。
その中から、今月は「茜色(あかねいろ)」についてご紹介いたします。
秋も深まり、夕焼けの美しい季節となりました。西の空に少しずつ日の暮れ行く時間は、美しくもありますが、冬至に向けて少しずつ日が短くなっていくことが少々寂しくもあり、太陽の光がいかに大事なものであるか、と考えさせられます。
「茜(あかね)」という字は『万葉集』に詠まれた「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖降る」(巻一)や、「あかねさす日は照らせどぬばたまの夜渡る月の隠らく惜しむも」(巻二)、など多くの詩に登場し、「日」「昼」「照る」「紫」などにかかる枕詞としてよく見られます。「さす」が色や光が映えるという意味を持っているので、「茜」は太陽が光り輝いて見えるような、やや黄味がかかった赤を表すのだと思われます。
その「茜色」をあらわすのに、日本では古来、日本茜という植物の根を使ってきました。
『正倉院文書』にも「赤根」と記されていて、まさしく赤い色素を持つ植物です。アカネ科の多年草の蔓草で、根は髭状に伸び、一年目のものは黄褐色ですが、二年目から赤の色素を持つようになる、と言われています。
飛鳥、奈良時代には、この日本茜を使った染織品が存在していて、その一つが奈良県の中宮寺に残されている「天寿国曼荼羅繍帳(てんじゅこくまんだらしゅうちょう)」です。日本最古の刺繍遺品として知られていますが、聖徳太子が亡くなった後に、妃である橘大郎女が天寿国の様子を刺繍させたものです。一部は鎌倉時代に修復されたものとされていますが、その飛鳥時代に刺繍されたと言われる部分には、鮮烈で非常に美しい茜染の赤が残っています。
しかし、茜染の技術が大変難しいために平安時代以降、赤をあらわす染料は紅花や蘇芳に次第に変わっていきます。その理由としては、一年目の根に持つ黄褐色の色素が多すぎて、染めると黄味が強すぎ、また濁りになってしまうためです。特に野生種であると、その根が何年目のものなのかを判断するのが難しく、また持っている色素量も少ないので、鮮烈な美しい赤を生み出すのは非常に困難と判断されたのでしょう。
染司よしおかでも数年前までは、澄んだ美しい「茜色」を生み出す日本茜の確保が大変難しく、大変苦心していましたが、ご縁あって2年もの3年ものの、そして沢山の茜を育ててくださる方に巡り合い、技法に関しても試行錯誤をかさね、ようやく美しい「茜色」を生み出すことが出来つつあります。先日その畑を拝見しに行ってまいりましたが、茜の根はしっかりと伸び、立派に育っていました。また、秋には小さな白い花を咲かせるのですが。伺った際にはその花と、小さな実がたくさん成っているのを拝見することができました。
収穫後、工房に届けられる茜で、美しい夕焼けのような赤が生み出されるように尽力したいと思っています。
吉岡更紗
染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。
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