染織家の吉岡更紗です。朱色、紅、古代紫、葡萄色、藍色、萌黄色…日本では様々な美しい色の名前がつけられてきました。今回は、「若草色(わかくさいろ)」についてご紹介致します。

今年は、3月に入っても寒い日が続きましたが、お彼岸を過ぎたころから急に気温が上がり、山や川の景色、花の開花など様々な風景から、春の訪れを感じられるようになりました。工房に通う道すがら、宇治川にかかる観月橋という大きな橋を渡るのですが、冬の間は枝のみになっていた樹々がこの陽気で一気に芽吹き出しました。淡い色ながらに鮮烈な萌黄色で、生命の息吹が感じられる透明感のある色に目を奪われます。そしてその色は日を追うごとに、少しずつ色濃くなっています。

日本古来の緑系の色を数えてみると、少なくとも30色以上あるそうです。山や野、田畑、沢山の緑に囲まれ、四季があり、自然に恵まれている日本の気候風土が関係しているのだと思いますが、その草や木々の緑の色合いの変化に合わせて、細やかな色名をつけていることが分かります。

春が訪れ、芽吹いた瞬間の草の色を「若草色」、菜の色を「若菜色」、苗の色を「若苗色」と名付けています。そしてそれぞれ淡い緑の中にも黄味があったり青みがあったりと、色目の特徴を捉えているのもとても面白いところです。
若草色は、野に生えた草の色を表し、淡いなかにもはっきりした印象の緑色です。緑系の色合いは、1つの染料で表すことが出来ない為、藍染に黄色を染め重ねて表しますが、色見本は蓼藍に黄檗(きはだ)をやや強めに染め重ねて表しています。
いずれこの緑は、春の深まりと共に色濃くなり「草青む」、力強い濃い「草色」となっていくのでしょう。
「若草」は、生命の息吹、や成長、若々しいエネルギーを感じさせるところから、初々しさ、新婚の夫婦の愛情や新たな出発を示す言葉として使われてきました。『万葉集』には「春日すら田に立ち疲る君は悲しも若草の妻なき君が田に立ち疲る」(第7巻)、「若草の新手枕をまきそめて夜をや隔てむ憎くあらなくに」(第11巻)、など夫、妻、新婚を表すような言葉の枕詞に使われています。

また、その葉の色の瑞々しさから、若い女性に喩えられることも多く、『伊勢物語』49段でに、「うわ若み 寝よげに見ゆる若草を 人の結ばむことをしぞ思ふ」という歌が出てきます。ある男性が、妹を愛おしく思い、他の男性が彼女を妻にすると考えると惜しくて仕方がないと詠んでいます。若き妹のことを「若草」と表していることがわかります。
19世紀後半のアメリカを舞台に、マーチ家の四人姉妹を描いたオルコット作「Little Women」の邦題が、当初は「四少女」、「小婦人」と直訳だったのが、いつしか「若草物語」となったのも、こうした日本の感性が生かされているのかもしれません。

吉岡更紗
染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。
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