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玄鳥去つばめさる

二十四節気と七十二候 2020.09.17

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和暦研究家の高月美樹です。

葉月の別名は燕去月(つばめさりづき)です。春は一羽ずつ海面すれすれを飛んでくるツバメたちですが、帰りは数千から数万の大集団で帰っていきます。

ツバメは気温に関係なく、日照時間の長さを感知して渡りを開始するため、年によるずれが少なく、春の「玄鳥至」と秋の「玄鳥去」は、対になって七十二候にとり入れられています。

ツバメの生態は面白く、魅力的です。ツバメは毎年ほぼ2回子育てをしますが、最初に巣立った一番子がお兄さんお姉さんとして二番子たちを外敵から守る行動を見せたり、子育てできなかったツバメが親の給餌に参加したり、ヘルパーの役割を果たすことが知られています。

巣立ってからも一緒に行動するのでたちまち小さな集団となり、ピチクチュとにぎやかにおしゃべりをしています。じきにご近所さんたちとも仲良くなり、夏には数十羽の集団を作って電線に止まっていたりしますが、その後はさらにまとまって大きな群れを作り、葦原や林のねぐらで眠るようになります。

夕方の空に、無数のツバメが乱舞している姿を見かけたことはないでしょうか。私は毎年、高速道路のサービスエリアで遭遇していますが、ツバメたちが高く舞い上がって、思い思いに急旋回や急降下を繰り返し、空にゴマ塩をまいたように空間を埋め尽くしている光景は壮観です。長い旅路に備えて、しきりに飛行訓練をしているようです。

そして秋風が吹き始めると、子ツバメを含む数千から数万羽の大集団となって旅立ちます。ツバメが旅立つのは、曇りの日か小雨の日。雲に隠れるように飛んでいきます。陽が落ちるのを待って、大きく旋回しながら、みえなくなるほど高く、高く舞い上がり、南へ移動していきます。

日本は「葦原の瑞穂の国」とよばれますが、葦原はツバメたちにとっても重要なお宿。葦はさまざまな生物の命のゆりかごです。水中の稚魚を育て、さまざまな鳥を営巣させ、弱い生物たちを守りながら、葦一本で年に2トンの水を浄化する力を持っています。

ツバメにとってもなくてはならないねぐらを提供してきた葦原は、年々減少しています。そのため近年はツバメのねぐら確保のため、各地で調査が行われ、葦原の保護、整備が行われるようになってきました。そうでなければ、いつしかツバメを見かけなくなった、ということになってしまうでしょう。長い旅路に絶対に必要なねぐらです。どんなに飛んでもねぐらが見つからず、休むことができないとしたら、辛いですよね。私たち人間もそろそろほかの生きもののことを考えて、しっかり助ける立場をとりたいものです。

旅の途中にあるねぐらは限られているため、今の時期、葦原や林にいる大集団は同じツバメたちではなく、北から南へと移動していく集団が次から次へと入れ替わっています。

外敵に狙われることがないようにあえて雲におおわれた天候の悪い日を選び、小雨が降っていてもたくましく飛んでいくツバメたち。秋は秋雨前線の影響で、曇ったり小雨が降ったりする日がありますが、そんな日はみえないくらい高い上空をツバメが渡っていることを、ちょっと想像してみてください。

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高月美樹

和暦研究家・LUNAWORKS代表 
東京・荻窪在住。和暦手帳『和暦日々是好日』の制作・発行人。好きな季節は清明と白露。『にっぽんの七十二候』『癒しの七十ニャ候』『まいにち暦生活』『にっぽんのいろ図鑑』婦人画報『和ダイアリー』監修。趣味は群馬県川場村での田んぼ生活、植物と虫の生態系、ミツバチ研究など。

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