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七十二候/鴻雁北こうがんかえる

二十四節気と七十二候 2024.04.09

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雁と燕

七十二候は「玄鳥至(つばめきたる)」に続き、「鴻雁北(こうがんかえる)」を迎えました。南からやってくる燕と交錯するように北へ帰っていく雁の姿は、昔から歌に詠まれてきました。まずは西行の歌をみてみましょう。

帰る雁にちがふ雲路のつばくらめ こまかにこれや書ける玉章   西行

帰る雁と入れ違うようにやってくる燕たち。雁と燕の大きさの違いから、申し送りのような燕の姿があれこれ細かく書いた文字のようだと詠んでいます。

玉づさのはしがきかとも見ゆる哉 とびおくれつつ帰る雁がね 西行

きれいな列を組んで飛んでいく雁の連隊に、パラパラと遅れて飛ぶ数羽の雁の姿が、手紙の最後につけた追伸のようにみえる、と詠んだ歌です。玉章(たまずさ)は昔、雁の足に結び文をつけて届けたという中国の故事からきた言葉です。そのため本来は手紙を届ける使者そのものをさしていましたが、のちに手紙や文章の美称として使われるようになりました。雁の姿そのものを文字として見ているのが面白いですね。

鳥曇り

つばめ来る時になりぬと雁がねは 国偲びつつ雲隠り鳴く 大伴家持

雁の群れがきれぎれに雲の中に消えていったり、雲の中から声だけが聞こえたりすることはよくあったようです。

古里に帰る雁がねさ夜ふけて 雲路にまよふ声聞こゆなり 新古今集

春は天候が不安定で、天気がよい日もあれば、曇る日もありますが、渡り鳥たちは敵に見つからないよう、あえて雲にまぎれるように帰っていきます。

雲のうへに行通ひても音をぞ鳴く 花咲くときに逢はぬ雁がね  藤原俊成

「鳥曇り」や「鳥雲に入る」は晩春の季語です。去っていく雁たちよ、また来年きておくれ、と別れを惜しみつつ見上げる空、たとえ見えなくても、雁が無事に帰ることを願うように見あげる日本ならではの曇り空です。

花を見捨てて帰る雁

春霞立つを見捨ててゆく雁は 花なき里に住みやならへる  古今和歌集

百花繚乱の美しい花々が咲く季節に、なぜ雁は花を見捨てて北へ帰るのか、と多くの歌人が詠んでいます。

いかでわれ常世の花のさかり見て ことわり知らむかへる雁がね 西行

「花を見すてて帰る雁」は、自然界の循環を象徴するモチーフともいえます。雁そのものは秋の季語ですが、「帰雁(きがん)」、「帰る雁」、「行く雁」は春の季語です。

春の初めの歌枕、霞たなびく吉野山、うぐいす佐保姫、翁草、花を見捨てて帰る雁

春らんまんの季節を迎えると、つい口ずさみたくなる『梁塵秘抄』の今様歌です。今様は当時の流行歌で、どのような節をつけて歌われたのかはよくわかっていませんが、ただ声に出して読むだけでも美しいリズムの日本語であり、春の歌枕のオンパレードになっています。

翁草(おきなぐさ)

今、ちょうど翁草の花が咲いています。宮沢賢治の「おきなぐさ」という童話には、蟻の仲間が病気にかかったときはこの銀の糸を少しもらってきて、からだをそっとさすってやるのだというお話が出てきます。翁草は岩手の方言で「うずのしゅげ」というそうで、おじいさんのヒゲの意味です。春を代表する、なんともいえない神秘的な花です。

鴨帰る

「鴻雁北(こうがんきたへかえる)」は4月10日〜14日頃ですが、雁が見られる地域は東北の一部で、日本の中でも今はごくわずか。渡りを開始するのは2月〜3月上旬ごろですが、近年は温暖化の影響で、秋は以前より遅く飛来し、春は以前より早く旅立つ傾向があり、滞在期間は全体に短くなっているそうです。そんなわけで、この時期には雁はもう旅立っていますので、この一候は実際には「カモ類の渡りの時期」と考えていただければとおもいます。

カモたちは雁より少し遅く、ちょうど4月頃に北に帰りますので、「帰雁」は見ることがなくても、「鴨帰る」という季語は今も実感としてあるかと思います。

カモは今も全国で身近にみられる鳥です。わが家の周辺でよく見られるカモ類はマガモ、コガモ、ヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、キンクロハジロなど。渡りの時期が近づくと互いに合図を送り合うようにグエッグエッと、騒ぐように鳴いたり、数羽で予行演習のように飛んだりしています。うちの周辺ではもうみんな帰っていってしまいました。

軽鳬の子

次第に寂しくなっていく水辺に残るのは、青い翼鏡を持つカルガモです。カルガモはカモ類の中で唯一の留鳥で、日本にとどまって子育てをします。このカップルは先日、雨で川が増水した日に岸に上がって、仲良く散歩していました。もしかすると、巣作りの場所を探していたのかもしれません。

うちの周辺では4月末にはもう、最初のカルガモの親子の姿を見かけるようになります。毎年多くの人が立ち止まって、愛らしいヒナたちの様子を眺めています。このヒナたちのことを「軽鳬(かる)の子」といいます。わが家は川沿いなので、ピヨピヨピヨピヨ、夜中もずっと声が聴こえています。

人々がヒナの成長を日々楽しみに見守るようになるのは大体、5月5日の立夏をすぎてからになりますので、「軽鳬の子」は夏の季語になっています。カラス、サギ、ヘビなど、ヒナたちを襲う天敵は多く、幼いうちは鯉に捕食されてしまうこともあります。

最初はたくさんいるヒナたちの数が見る度に少しずつ減っていくのを見るのはしのびないところもありますが、そのための子沢山です。生存率は20%ともいわれていますが、人が多い場所の方が天敵に襲われにくく、生き延びやすいため、ツバメと同様、カルガモは人にもっとも身近な鳥になりつつあります。

鶫(つぐみ)

写真提供:Yamahiko Takano

北へ帰るのは水鳥だけではありません。秋にやってきたツグミもそろそろ帰る頃ですが、ツグミは花を満喫してから帰るつもりのようで、4月下旬まで姿を見かけます。花びらの散る季節、すっかり青くなった大地をちょんちょんと飛び歩き、胸をそらせては周囲を眺めています。ツグミは越冬にくるだけで、日本では子育てをしませんので、まったく鳴きません。口をつぐんでいるので、ツグミです。また来年! 冬鳥たちとのお別れの季節です。

文責・高月美樹

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高月美樹

和暦研究家・LUNAWORKS代表 
東京・荻窪在住。和暦手帳『和暦日々是好日』の制作・発行人。好きな季節は清明と白露。『にっぽんの七十二候』『癒しの七十ニャ候』『まいにち暦生活』『にっぽんのいろ図鑑』婦人画報『和ダイアリー』監修。趣味は群馬県川場村での田んぼ生活、植物と虫の生態系、ミツバチ研究など。

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