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花鳥でめぐる二十四節気/雨水うすい

二十四節気と七十二候 2025.02.18

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◎雨水 2月18日~3月4日 「マンサクとヤマガラ」

立春が終わって雨水となりました。より春が近づいている感覚です。雨水は「雪散じて水と為る也」、気温が上がって、雪や氷が溶けて水になるという節気。草木も芽を出し始める、萌芽の兆しが感じられるころです。小鳥たちの声も、心なしかにぎやかに聞こえます。

雨水は農耕の準備を始める目安となる節気でもありました。2月最初の午の日、初午(今年は6日)では農具市が立つことも合わせて考えると、寒いとはいえ、この時期にはすでに農事が始まっているともいえましょう。

さて、このころ花を咲かせる木といえば、マンサクがその代表かもしれません。まだ周りは冬枯れのなか、眩しいばかりの黄色い花が枝から直接咲いています。細い紐のような花びらを四方に伸ばし、花と花が身を寄せ合って咲いている様子が健気です。

この「マンサク」という名前は、ほかの草木に先駆けて「まず咲く」から転じたといわれますが、ほかにもいくつか説があります。「満さき」で、どの枝にも黄金色の花が豊かに満ちる。あるいは、「萬作」で豊かな実りと繁栄を意味する、など。どちらにしても、黄金色で豊かで繁栄、と縁起がいいことに間違いなさそうです。

マンサクの英名は「Witch Hazel(ウィッチ・ヘーゼル)」、平たく訳すと「魔女のハシバミ」。木の姿がハシバミの木に似ていることからついた名前のようですが、なぜに魔女? あの、黄色く弾けるような花の様子がウィッチを想起させるのでしょうか。

「ウィッチ・ヘーゼル」ときいて、あれ? と思い出しました。その昔、まだ学生のころのことです。作家の片岡義男さんのエッセイに「髭剃りあとにはウィッチ・ヘーゼル、これで完璧」との文を見つけたのでした。当時よく行っていた、輸入品を揃えたドラッグストアに「Witch Hazel」という気になるボトルを見ていたので、「あれのことか⁉︎」と思い当たったのです。その年のクリスマスにはさっそく買って、父にプレゼントで渡しました。父は特にどうということなく使っていたようです。

これは収斂作用のあるローションで、もう100年以上の歴史ある製品なのだそう。その名のとおり、マンサク(アメリカ・マンサク)の葉に含まれる精油から作られるもので、元はネイティブ・アメリカンが古くから使用していたといいます。今も広く製品として売られています。

あのウィッチ・ヘーゼルのローションはマンサクから作ったんだ。これを知ったときはなかなか両者が結び付かず、不思議に感じました。寒さに強く、適応性も広い、丈夫な植物のマンサク。そのパワーが、ローションにも生かされているのですね。

山の寒さをものともせず、元気に飛び回るヤマガラも、また丈夫さでは木のマンサクに引けをとらない小鳥です。本格的な春を待つこの季節、庭にも可愛らしい姿を現してくれます。野鳥のなかでも、とりわけ人懐こいことでお馴染みのヤマガラさん。昔は神社のおみくじをくわえて渡す芸もして人気だったほどです。

雪の朝、ベランダで手のひらにヒマワリの種を乗せて腕を突き出し、顔を伏せて待ったことがあります。すると、1分もしないうちに手のひらに乗って、タネをひとつくわえて行きました。野鳥としては、驚くべき人懐こさ。

マンサクとヤマガラ、まだ冬枯れのこの季節に、心を温めてくれる花鳥です。 

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平野恵理子

イラストレーター、エッセイスト
1961年静岡県生まれ。著書に『五十八歳、山の家で猫と暮らす』『歳時記おしながき』『こんな、季節の味ばなし』ほか多数。好きな季節は、季節の変わり目。現在は八ヶ岳南麓在住。

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