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てんとう虫

旬のもの 2020.06.28

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和暦研究家の高月美樹です。

てんとう虫を手に乗せると、あっという間に指先までトコトコトコと登っていき、いきなり羽を広げ、ブーンと飛んでいってしまった経験がある方、多いのではないでしょうか。飛ぶときは必ず枝の先端、いちばん高いところまで登っていき、天に向かって飛び立つ。それがてんとう虫=天道虫の名の由来です。

テントウムシには肉食系と草食系、菌食系がいます。代表的なナナホシテントウやナミテントウは肉食系で、アブラムシを食べてくれる益虫。ナミテントウのナミは普通の、という意味で、黒地に赤の二つ紋のほか、四つ紋、赤やオレンジに多数の星があるものなど、星の数もさまざま。

ナナホシテントウ
ナミテントウ

歩みが速いというのも肉食系の特徴です。茎や葉の上をよく歩き回り、アブラムシがいなくなると、すぐにどこかへ飛んでいってしまいます。なので、庭や畑からテントウムシがいなくならないようにするにはつねにある程度、アブラムシがいる状態を作っておく方がよいのだそうです。

たとえばアブラムシが好むキク科のカモミールやマリーゴールド、ハキダメギク、マメ科のクサフジやシロツメクサ、シソ科のオドリコソウやホトケノザなどをコンパニオンプランツとして植えて、共生してもらうのも手です。

わが家は毎年、春になると、冬から咲き続けていたビオラたちにアブラムシが発生して、取っても取っても追いつかず、結局、増えてしまうのですが、これは室内のサンルームに限ってのこと。外に出している鉢植えの方はいつまでも虫がつかず、長く元気に咲き続けます。自然にてんとう虫などの天敵が訪れ、生態系のバランスがとれている証拠で、その違いをはっきりと実感します。

近年は農業用に「飛べないテントウムシ」も開発されているようですが、テントウムシはよく死んだふりをする虫。手足をしまえるコロンとした半球状の体は転落用とも思えるような形状です。危険を感じると自ら地面に落ちて、転がります。羽はひっくり返った体勢から起き上がるときにも使いますので、テントウムシにとって必要なときに羽が使えないというのはさぞ不便だろうとおもいます。

大型のカメノコテントウ

肉食系のテントウムシはそれぞれ好きなアブラムシが決まっていたり、大型のカメノコテントウのようにハムシを食べるものや、カイガラムシや青虫を食べるものもいます。時々、花の中にいるテントウムシを見かけますが、テントウムシは花粉も食べているようです。花粉はミツバチやマルハナバチにとって子育てに欠かせない大事なたんぱく質ですが、肉食のテントウムシにとっては非常食のようなものだとか。

そして草食系といえば、ニジュウヤホシテントウ。ジャガイモやナスの葉をどんどん食べてしまい、収穫に大きな打撃を与える害虫です。テントウムシダマシと呼ばれることがあるのは、益虫であるほかのてんとう虫と区別するため。二十八個の星と、全体がうぶ毛に覆われていて模様がモヤっとしていることが見分けポイント。ちなみに先日、ご紹介した畑のカマキリはこのニジュウヤホシテントウの幼虫をせっせと食べてくれている益虫です。

ニジュウヤホシテントウ

菌食系は、まっ黄色のキイロホシテントウやシロホシテントウ。ウドンコ病菌をどんどん食べてくれる益虫です。というわけで、草食系以外のテントウムシはほぼ益虫ですので、人間にとってはまさに「幸福を呼ぶ虫」です。バラを育てているガーデナーも、アブラムシもとってくれて、ウドンコ病からも守ってくれるテントウムシを大事にされている方が多いようです。

キイロテントウ

もうひとつ覚えておいていただきたいのは、1996年から日本に入ってきた外来種のムネアカオオクロテントウです。6〜8ミリの大型で、紋のない黒い体とオレンジの頭。名前の通り、お腹もオレンジです。葛につくマルカメムシを主食としているのですが、このマルカメムシが減ってしまうと、今、全国で繁茂しすぎて問題になっている葛がますます繁茂してしまうことが懸念されています。

ところでテントウムシは鮮やかな色のものが多く、よく目立ちます。鮮やかな赤や黒は「私を食べないで」「危険ですよ」という警戒色で、実際にアルカロイドを含んでいるため、鳥やクモは食べることができません。テントウムシの天敵は、小さな寄生バチや寄生バエ。この寄生バチや寄生バエがニジュウヤホシテントウを全滅させることもありますので、そういう意味では彼らも益虫ということになります。

アブラムシから甘い蜜をもらって共生しているアリも、アブラムシを助けるためテントウムシの邪魔をしますが、天敵というほどではありません。テントウムシは成虫になっても1日100匹近いアブラムシを食べますので、十分な栄養がとれないというだけで、自然に個体数は減っていくようです。

アブラムシの天敵はテントウムシのほかに、小さなヒラタアブやクサカゲロウの幼虫がよく知られています。どちらもアブラムシを全滅させるほどの大食漢。成虫のヒラタアブはよく花の蜜や花粉を食べにやってきます。花の上でホバリングしてはスイっと動く、細いハチのような姿。よくみかけるのではないでしょうか。ハチに擬態していますが、益虫で人を刺すこともまったくありませんので、大事にしてあげてください。

ヒラタアブ

益虫か害虫かは人間の都合ではありますが、結局は植物も多様で、生き物もカマキリ、クモ、アリ、アブラムシ、テントウムシなどがいるミックス状態が理想的ということになります。今後は農業でもますます自然界のしくみを取り入れたコンパニオンや共生関係が導入されていくことになるでしょう。

最後に私が好きなのは、田んぼの畦や森の中でみかけるこのヒメカメノコテントウ。水玉もいいですが、ブロックチェックや十字のようなデザイン、めちゃめちゃおしゃれです。

ヒメカメノコテントウ
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高月美樹

和暦研究家・LUNAWORKS代表 
東京・荻窪在住。和暦手帳『和暦日々是好日』の制作・発行人。好きな季節は清明と白露。『にっぽんの七十二候』『癒しの七十ニャ候』『まいにち暦生活』『にっぽんのいろ図鑑』婦人画報『和ダイアリー』監修。趣味は群馬県川場村での田んぼ生活、植物と虫の生態系、ミツバチ研究など。

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