こんにちは。気象予報士の今井明子です。
冷たい北寄りの風が身にしみる季節になりました。
冬の日本海側の風物詩といえば「ぶり起こし」です。
あまり聞きなれない言葉だと思いますが、それもそのはず、日本海側でも特に限られた地域でしか使われないのだそうです。
ぶり起こしとは何かというと、冬の雷のことを指します。
日本海側以外に住んでいる人にとって、雷といえば春や夏に発生するものというイメージがありますよね。しかし、日本海側では冬にも雷が鳴るのです。
この時期に日本海を回遊しているブリが獲れ始めるので、ぶり起こしと呼ばれるわけですね。
雷を発生させるのは、積乱雲。つまり、ぶり起こしをもたらすものも積乱雲です。
冬の冷たい北西の季節風は、大陸にあるシベリア高気圧から日本に向かって吹いてきます。
もともとこの季節風は乾燥しているのですが、日本海を通るときに海から水蒸気が提供され、湿った空気に変わります。この湿った空気が、日本列島の中心をとおる山脈とぶつかるときに積乱雲を発生させ、大雪をもたらすのです。
日本は中緯度帯でありながら、世界でも類を見ないほどの豪雪地帯として知られています。そして、冬の雷も、ほかには北欧など世界でもごく限られた地域でしか発生しない現象だといわれています。つまり、日本海の冬の大雪と雷はどちらも世界的に珍しい現象なのです。冬の季節風と日本海、そして日本の中心にある山脈の存在が、このふたつの珍しい現象を作っているのですね。
ちなみに、積乱雲といえば、背が高くモクモクのイメージがありますが、冬の日本海側で発生する積乱雲は、さほど背は高くありません。また、雷も何度も鳴らず、一発で鳴っておしまいということが多いようです。このように書くと、なんだかたいしたことなさそうな感じがするのですが、この一発の雷のエネルギーが夏の雷の100倍以上と非常に大きく、落雷すると大きな被害をもたらします。
ぶり起こし。
名前はおいしそうですが、決して油断できない冬の風物詩なのです。
今井明子
サイエンスライター・気象予報士
兵庫県出身、神奈川県在住。好きな季節はアウトドア・行楽シーズンまっさかりの初夏。大学時代はフィギュアスケート部に所属。鯉のいる池やレトロ建築をめぐって旅行・散歩するのが好き。
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