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こんにちは、料理人の庄本彩美です。植物が一斉に芽吹き出す春が来ました。本日は芽もの野菜の一つである山椒の若芽「木の芽」のお話です。

「木の芽」といえば、何を思い浮かべるだろうか。
私はまず山椒の葉を思い浮かべるのだが、先日友人とこの話をしていると「どの木の芽のこと?」と困惑された。
思い返せば、私も料理を始めた頃はどの木の芽の事か分からなかった。
雪国で「木の芽」といえば、アケビの若芽を指す地域もあるそうだが、一般的には「木の芽」というと山椒の若芽を指すことが多い。

写真提供:庄本彩美

山椒は和食料理を飾るハーブであり、わさびと並んで日本の代表的な香辛料である。英名は「Japanese Pepper」で「日本の胡椒」だ。
山椒ははるか昔、縄文時代のころから日本人と馴染みが深いそう。そして葉、花、実、木の皮とそれぞれ収穫の時期をずらしながら、各部位に合った食べ方で長い期間私たちの舌を楽しませてくれる。
山椒という言葉の「椒」という字には「芳しい・辛み」の意味がある。山の薫り高い辛味の実であることから「山椒」の名が付けられたそうだ。

今の時期は、山椒の若芽の旬である。
売られる際には、パッケージに「木の芽」と書かれていることが多い。初めて見た時は、数多ある木の代表であるかのような書かれ方に驚いたが、料理に使ってみると納得。なんとも気高い香りと上品な辛みに、大人の味覚の世界へ入り込んだかのような感覚を抱いた。

木の芽の代表的な料理と言えば「木の芽和え」だろう。
山椒の若芽を細かく切ってすり鉢で味噌にすり込み、砂糖、みりん、酒などで味を調え、筍や烏賊、蛸を和えたもの。

写真提供:庄本彩美
写真提供:庄本彩美
写真提供:庄本彩美

仕上げに料理人が木の芽をポンっと手で衝撃を与えて、小鉢に天盛りにされた一品に木の芽を添えるのを見たことがある人もいるだろう。
これを行なうと、細胞が壊れて中の香り成分が外に出てくるため、香りが強くなるのだ。
木の芽の爽やかな香りと白味噌のコクと甘さは、新しい季節の訪れを感じさせてくれる。喉元を通る時、春を独り占めしたかのような気分になる。

木の芽というと、「木の芽(このめ)どき」という言葉がある。
これは山椒のことではなく、3〜4月にかけての時期のことで、長い冬が終わり木の芽や虫たちが動き出す季節にあたる。精神的に一番バランスを崩しやすい時との注意が込められた言葉でもある。
春めくにつれ、体調の不調を感じた方も多かったのではなかろうか。

「春は苦味を盛れ」と和食の世界ではいわれる。苦みのある食材は老廃物を排出させ、新陳代謝を促す働きがあると考えられている。冬の間に溜まった老廃物の代謝を促し、体を目覚めさせる古くからの知恵だ。春の食材は私たちの体をサポートしてくれる。

写真提供:庄本彩美

木の芽どきこそ、木の芽和えをいただきたいところ。
そんな駄洒落のようなことを考えながら、私は和えた筍を箸で丁寧に盛り付けた。

ちなみに、山椒の木は環境の変化に弱いという。静かな場所を好むらしく、一説には木の芽を摘むときには、歌ってはならないという話もあるらしい。
そんなデリケートな木の芽と、春を迎えた自分自身を重ねながら、優しく片手に葉を乗せた。

写真提供:庄本彩美

潰さないよう掌を膨らませて木の芽にポンッと圧をかける。
両手をゆっくりひらくと、爽やかな香りと刺激が鼻をスッと通り抜けた。
これは、私自身の春の目覚ましの儀式でもある。
眠りから覚める木の芽のように、私も新しい季節を頑張ろうと気持ちが満ちてくるのだった。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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