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カルガモ

旬のもの 2021.07.13

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

みなさんは、カルガモフィーバーを覚えていらっしゃいますか?
今から30年以上も前の出来事なので、若い人はご存知ないかもしれませんね。

1983年5月下旬。東京・大手町の人工池に、11羽のヒナをつれたカルガモが突然現れました。そのひと月後、親子は行列を作って車が激しく行き交う道路を横断し、皇居のお濠に引っ越したのですから、みんなびっくり仰天。
それから数年間は、毎年6月になると引っ越しの瞬間を撮影しようとマスコミ各社が張り込んでの報道合戦となり、空前のカルガモフィーバーとなったのです。
一番盛り上がった1985年には、休日になると1万人ものギャラリーが押しかけたのですから、その白熱ぶりは驚くばかり。それ以降、カルガモはすっかり有名になり、今では誰もが知っている鳥となりました。

カルガモは、日本全国の河川や湖沼に生息するカモの一種。雌雄同色で嘴の先が黄色いのが特徴です。日本で記録されるカモのほとんどが渡り鳥で日本では繁殖をしませんが、カルガモは渡りをせずに一年中見られ、子育てもほぼ全国で普通にしています。

メス(左)とオス(右)

繁殖期は4~7月にかけて。水辺の草の茂みに巣を作り、10~14個の卵を産みます。卵はメスだけで温め、26日ほどでふ化します。子育てもメスだけのワンオペ育児です。オスはいっさい手伝いません。
でも、ヒナは生まれてすぐに歩くことも自分で食べものをとることもできるので、意外と手間がかかりません。そうはいっても、食べものの草や種が豊富にある場所でないとヒナがお腹を空かせてしまうので、食べものを確保するためにときどき引っ越しをするのです。

大手町だけでなく、近頃のカルガモは街中のちょっとした水環境があれば繁殖するようになっています。いったいカルガモたちに何があったのでしょうか。

かつてのカルガモといえば、肉の美味しい鳥。日本人にとってはよだれの出る食べものでした。しかし、今では狩猟されることも少なくなり、とくに都会では命が狙われることはありません。むしろ、愛すべき生きものとして可愛がられる存在です。

たとえば、某有名テーマパークにいるカルガモは、まるでキャラクターのように愛されているので、来園者の足下を平気で歩き回る光景が見られます。カルガモを食べものとして見なくなった現代では、人間は警戒する相手ではないのです。

また、人のそばはカラスなどの天敵が近づきにくいので、むしろ近寄って利用した方がカルガモにとって好都合。繁殖成績も良くなります。大手町のカルガモは30年間も繁殖を続け、これまで260羽のヒナが誕生し、そのうち206羽がお濠に引っ越しています。普通はヒナが小さいときほど危険で命を落としますが、大手町のカルガモは8割もヒナが生き延びています。これは驚異的な成績です。こんなにうまくいくならば、この場所にこだわるわけです。
春先には、何羽ものカルガモが飛来して場所取り合戦をするほどなので、本当に魅力的な物件なんでしょうね。現在は工事中で池はありませんが、新たな池として生まれ変わるそうなので、カルガモ親子の可愛い姿がまた見られる日が来ると思います。

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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