こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。
神社で見かける、縁起物の熊手。
そもそも熊手とは、落ち葉などの掃除や、農業に用いる竹製の道具です。一本の長い柄からたくさんの曲がったツメが扇形に広がり、それを手前に引き寄せて動かすことで物を「掻き込む」ように使います。
「掻き込む」にちなんで、熊手を使って「幸福をたくさん掻き込む」というところから、縁起物として神社で頒布されたり、出店で売られたりするようになりました。
他にも、その形が獲物を捕らえる鷲(わし)の様子に似ていることから、幸福や財を「鷲掴み」できるようにという祈りも込められているそうです。
熊手は、毎年11月の酉(とり)の日に、鷲(おおとり)神社を中心に行われる「酉の市」というお祭で見かけることが多い縁起物。
干支の酉は、「とりこむ」といった言葉を連想するために、古くから商売繁盛の縁起をかつぐ動物とされていて、まさに熊手はそんな酉の市にぴったりの縁起物です。
鷲神社は、同じ読み方で「大鳥神社」とも書き、人々には「おとりさん」とか「鷲大明神様」などという愛称でも親しまれています。
お祀りされている神様は、日本の神話でも特にスーパーヒーローのような強さを持つ、ヤマトタケルノミコト(倭建命・日本武尊)様。
かつては武士の間で、その強さにあやかりたいと、必勝・出世・除災などの信仰を集めていました。現代では、さらに開運招福や商売繁盛といった、幅広い御神徳で愛される神様です。
中でも商売繁盛を祈る人々の間では、大きくて立派な熊手をもとめて、毎年酉の市に足を運ぶ方も少なくありません。
熊手は職人さんによって個性豊かにさまざまな縁起物の装飾が施され、とにかくにぎやかで盛りだくさん。見ているだけでもワクワクして、なんとなく良いことがありそうな気持ちになってきます。
小判にお多福面、打ち出の小槌や大入り袋、米俵、七福神や鶴亀、招き猫に鯛など――。
とにかく縁起の良いものが、これでもかとあしらわれていることが多く、まさに広げた手のひらのような熊手が、その中に山ほど幸福を掴んでいるように思えてきます。
熊手の買い方にもさまざまな風習があり、最初は小さなものを選び、年を重ねることに少しずつ大きくしてゆくことで商売や事業の成長を祈る――といった方法があります。
他にも「粋」な買い方として、最初に聞いた金額から何度か値切り、最終的には割り引いてもらった分の額を「ご祝儀」として店主に返すのだとか。
「せっかく割り引いてもらったのに?」と思われるかもしれませんが、これはお互いにとって気分よく縁起物の熊手をやり取りするための、買い物の工夫なのです。
商談が終わると、最後には揃って手締めが行われることもあり、酉の市では夜遅くまであちこちで手締めの音と陽気な掛け声が響き渡っています。
神社でこの雰囲気を楽しめるのは、酉の市ならでは。酉の日は十二支の巡りで十二日に一度やってくるため、多い年で3回、少なくとも2回は11月に酉の市が開催されます。
お近くの神社で酉の市がある際には、神様に開運招福や商売繁盛を祈りながら、素敵な熊手との出会いを探してみてはいかがでしょうか。
紺野うみ
巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。
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