こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

冬のバードウォッチングの楽しみの一つに、カモウォッチングがあります。
カモって、鳥を見るにはとてもいいんです。なにしろ見やすい。水面にぷかぷか浮かんでいるので、見つけるのもじっくり見るのも簡単です。これが森の小鳥だったらそうはいきません。ちょこまか動き回るので、じっくり見るなんて至難の業です。

そして、なによりカモ類最大の魅力は色が美しいこと。とくにオスはきれいな色をした種が多く、いつもみとれてしまいます。なかでも今回の主役であるオシドリは群を抜いています。まさに豪華絢爛ないでたちで、カモ類ではおそらくダントツ1位の美麗種でしょう。世界的にも極東にしか分布しないので、まさにオリエンタルビューティーです。

オシドリは、全長45cmほどの水鳥。夏は本州中部以北の山の森で子育てをし、秋になると平地の池や湖沼で群れをつくって越冬するカモの仲間です。オスは金や紫、緑、赤などの極彩色の体に、銀杏羽（いちょうば）と呼ばれる飾り羽が船の帆のように立ち、より一層華やかさを演出します。メスは、全体が灰褐色の地味な色をしていますが、目の周りとそこから後ろに伸びる白い線がかわいらしい印象を与えています。

私はオシドリのオスを見るたびに、なんだかオモチャみたいだなと思うのですが、いかがでしょうか？ どうやったらこんなデザインにたどり着くのか不思議でなりません。オシドリは長い進化の歴史のなかで、この色や形にたどり着いたわけですが、人の思考を遙かに超えた自然の造形の素晴らしさには溜息しかありません。

こんな美しいオシドリですが、なぜかオープンな水面にいることは少なく、岸まで樹木に覆われた暗い森の中の池にいることがほとんど。茂みに隠れて、美しい姿を拝めないことがよくあります。カモは見やすいと言っておきながら、オシドリの場合はちょっと事情が違うので、ごめんなさい。

でも、これには理由があります。オシドリの大好物はなんとドングリ。森に囲まれた池にはドングリがたくさん落ちているので、それを食べるためにこんな池にいることが多いのです。あと、けっこうシャイな性格なことも影響しているかもしれません。

オシドリといえば、オシドリ夫婦が有名ですね。「鴛鴦（えんおう）の契り」という故事成語があるほど、夫婦仲の良いことで知られています。オシドリは夫婦になると一生相手を変えず添い遂げると言われ、結婚式のスピーチなどでもよく使われます。確かに実際のオシドリでもオスとメスが仲良く並んで泳いでいるシーンをよく見かけます。

ところが、これは実話ではないという説があります。夫婦でいるのは、冬から初夏にかけての約半年間だけ。オスはメスが卵を産むと消えてしまい離婚するというのです。一生添い遂げるどころか、毎年結婚と離婚を繰り返しているのが、オシドリ夫婦の実態だと言われています。

なーんだ実際は話とはずいぶん違うんだなと思っていたら、一昨年ちょっと驚くべき研究結果を知ってしまいました。ドイツのオシドリの観察例なのですが、６年間ずっと同じ夫婦だった例があり、つがい相手が生きている限り、離婚した例はないというのです。ただ、ドイツのオシドリは移入された鳥なので、日本とは状況が違い、そうなっている可能性もあります。

一方、日本の毎年離婚説も、オシドリに標識を付けて追跡してわかったことではありません。断片的な観察を総合した結果そう言われているだけに過ぎず、状況証拠だけなので実態はよくわかっていません。日本でもオシドリ夫婦の真実を解き明かそうという研究がスタートしているので、今後の進展に期待したいところです。はたして真相はいかに。

写真提供：柴田佳秀