こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
2月は、一年で一番寒さが厳しい時期ですね。湖にいるハクチョウたちも、湖面が凍ってしまうと居場所がなくなり困ってしまうので、もっと暖かい場所に引っ越しをするものがいます。そんなハクチョウが都市公園の池などの思いがけない場所に姿を表すのが、1~2月なんです。
さて、そのハクチョウといえば、冬の使者として有名です。毎年10月中旬になると全国の有名越冬地からは飛来のニュースが届きます。私の知人が務めている観察施設では、毎年初渡来日予想クイズというイベントをやっていて、皆さんハクチョウがやってくるのを心待ちにしているそうです。
ハクチョウにもいくつか種類があるのをご存知でしょうか。世界に6種が知られ、そのうち日本には、今回の主人公であるコハクチョウをはじめ、オオハクチョウ、コブハクチョウ、ナキハクチョウの4種が記録されています。ただ、ナキハクチョウは北アメリカに分布する鳥なので、日本にはごく希にくるだけ。コブハクチョウは、野生で渡来した記録が1933年の八丈島に現れた1羽だけしかありません。
「あれ、おかしいな? コブハクチョウは近所の池にいるけど」と思った方がいらっしゃるかも知れません。はい、確かにコブハクチョウは、日本各地の湖や池にいますが野鳥ではありません。人が放して管理しているか、飼育していた鳥が逃げ出して野生化したものなのです。コブハクチョウは、基本的には一年中ずっと同じ場所にいて渡りをしませんから、冬の使者と言えるのはオオハクチョウとコハクチョウの2種のみです。
オオハクチョウとコハクチョウ、どちらも全身が真っ白で嘴が黒と黄色の似た鳥です。名前の通り、オオハクチョウは全長140cmと大きく、コハクチョウは全長120cmと小型です。並ぶとこんなに大きさが違うのかと思うくらい違うのですが、同じ種類だけでいると、大小の判断がつかないことがよくあります。そんなときに注目するのが、嘴の黄色の面積です。オオハクチョウの方が面積が広く、コハクチョウは狭いので見分けることができます。
日本には、毎年7万羽ほどのハクチョウ類が越冬しに渡って来ますが、そのうちコハクチョウは4万3千羽と一番渡来数が多いハクチョウです。東北や関東上信越、北陸や中国地方、琵琶湖などが主な越冬地で、一番数が多いのが新潟県です。令和3年1月の環境省の調査では、約2万羽が越冬しました。
ところでハクチョウって湖にいると思っていませんか? 白鳥の湖という曲があるくらいですからね。実際に湖にいることはいるのですが、それは夜の寝るときか人が餌をやる時間だけです。それ以外はどこにいるかと言えば、田んぼにいます。ハクチョウの主な食べものは草の葉や根、種子です。とくに大好きなのがお米。冬の田んぼには、刈り取り後にはえた二番穂と呼ばれる収穫しないお米や落ち籾があります。昼間はそれを食べに田んぼへやってくるのです。
とくにコハクチョウにその傾向が強く、新潟県が最大の越冬地であることの理由がわかります。なにしろ日本有数の米どころであるのが新潟県ですから。その他のハクチョウの渡来地は、どこも有名な米どころばかり。日本でコハクチョウなどのたくさんのハクチョウ類が越冬するのは、広大な田んぼがあるからに他ならないのです。
2月後半になると、コハクチョウたちはソワソワしはじめます。繁殖地へ出発する日が近づくからです。ペアになった鳥たちは、大きな声で鳴きながらダンスを踊り、お互いのコンディションをシンクロさせます。
そして、3月はじめには本州の越冬地から飛び立ち北帰行を開始。途中、北海道やサハリンなどで1ヶ月ほど滞在し、その後、約3週間かけて北極海沿岸の繁殖地に到着するのです。その距離は約4000km。毎年春と秋の2回、そんな旅をして日本と北極を往復していると思うと鳥たちの偉大な能力は、すごいという言葉しか見つかりません。
柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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