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シジュウカラ

旬のもの 2022.03.14

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

3月って、上旬と下旬ではずいぶん寒さが違う感じがします。そのため、冬なんだか春なんだか、よくわからない時期だなと毎年思います。ところが鳥たちは違います。3月に入れば、すでに心は春モード。子育てのための活動が始まっています。なかでも元気なのが小鳥たち。今回の主人公であるシジュウカラは、求愛のために木のてっぺんで「ツツピー、ツツピー」と本格的にさえずり始めます。

写真提供:柴田佳秀

シジュウカラは、全長15センチほどの真っ黒い頭に白いほっぺたが目立つ小鳥です。また、胸からお腹にかけて黒い線が一本走っているのも大きな特徴で、オスはこの線が太く、メスは細くなっています。黒い線をネクタイに見立てて、「ネクタイが太いのがオスなんだよ」なんて言う人もいます。

オス 写真提供:柴田佳秀

でも、この太さの違いは、ペアでいれば比べられるので簡単に性別がわかるのですが、単独だとちょっと難しいのです。そんなときは、両足の間に注目します。オスは両足の間が黒い線でつながっていて、メスはつながっていないので見分けることができます。

メス 写真提供:柴田佳秀

シジュウカラは、小笠原諸島や屋久島、種子島、トカラ列島をのぞく全国で見られる鳥です。森で出会うことが多いので、森林の鳥というイメージが強いのですが、実際には河川敷のヨシ原や大都会の街路樹など、しかも平地から高い山まで、けっこうどこでも見られる鳥でもあります。もしかしたら、人家の近くにしかいないスズメよりも、ずっとずっと普通の鳥なのかもしれません。

写真提供:柴田佳秀

そんなド普通種のシジュウカラですが、私は彼らに出会うと何故かとても嬉しくなります。けっして「なーんだ、シジュウカラか」と思うことはなく、毎回、なんだか胸がときめくのです。動きが活発でいろいろな仕草を見せてくれるからでしょうか。それともおしゃべりをしているようにいつも賑やかに鳴いているからでしょうか。とっても陽気な感じがして、こちらまで心が明るくなる気がするのです。

そして、なんと言ってもシジュウカラの魅力で忘れられないのは背中の色です。青みがかった黄緑色は、見るたびになんてきれいな色なんだろうと魅了されてしまいます。黒い頭に白いほっぺた、お腹の黒いネクタイ、そして美しい背中の黄緑色。本当に素敵なデザインの鳥だなと思うのです。

写真提供:柴田佳秀

彼らが小枝を活発に動き回るのは、食べものを探しているからです。主な食べものは昆虫で、とくにチョウやガの幼虫が大好物。めまぐるしく枝から枝へ移りながら、葉陰や枝にいる幼虫をめざとく見つけてとらえます。双眼鏡で見ていると、けっこう頻繁にとるので、よくそんなに見つけられるなと感心する程です。これらの幼虫は木の葉を食べてしまうため、植物にとっては困った存在です。シジュウカラは、それをせっせと食べてくれるわけですから、森にとっては虫だらけにならず、健康を保つためにはなくてはならない存在です。

写真提供:柴田佳秀

最近、日本のシジュウカラは世界の生物学者から注目を集めています。それは、彼らの鳴き声には単語のような意味があり、さらにその単語を並べて文法のような文章をつくって鳴いていることがわかってきたからです。

このことを明らかにした京都大学の鈴木俊貴さんの研究によると、「ジャージャー」という声は「ヘビだ」という意味で、この声を聞くと巣箱の中にいたヒナは一斉に逃げ出すといいます。巣箱の中にじっとしていたらヘビに食べられて全滅してしまいますから、一目散に逃げ出した方が安全なのです。

また、「ピーツピ」は「危険だ」という意味だそうです。そして「ヂヂヂヂ」という声は「集まれ」という意味。この二つの単語を組み合わせた「ピーツピ、ヂヂヂヂ」という声を録音して森でスピーカーから流すと、シジュウカラが集まってくるのだそうです。これは「ピーツピ(危険だ)、ヂヂヂヂ(集まれ)」と解釈して集まってきたことを意味します。みんなで協力して天敵を追い払おうとしているんですね。おもしろいことに「ヂヂヂヂ、ピーツピ」の順で再生すると反応がないそうです。シジュウカラの鳴き声には文法のようなものがあって、順序が正しくないと意味が理解されないんですね。

写真提供:柴田佳秀

ただ、賑やかにおしゃべりをしているように思えたシジュウカラたちですが、こんな高等な会話をしていたとは、本当に驚きます。これらの鳴き声以外にも、シジュウカラはたくさんの声を出すので、さらに研究が進めば、もっと彼らの会話の意味がわかるでしょう。ますますシジュウカラたちとの出会いが楽しみになってきますね。

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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