こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
今回は、日本で一番小さなキツツキの仲間のコゲラを紹介します。
キツツキって、なんだかとても変わった鳥です。木の幹にしがみつくように縦にとまるのも普通の鳥とは違いますし、嘴でコンコンコンと木をつついて穴を開ける行動はとてもユニーク。他の鳥にはない不思議な魅力を持つ鳥だと思いませんか?
日本には12種のキツツキ類がいるのですが、アリスイ以外はみんな○○ゲラという名前がつけられています。このゲラって、キツツキという意味なんですが、なんか変な名前ですね。じつはこれ、元々は寺という言葉だったという説があります。キツツキにはお寺みたいな木造の建物をつつく習性があり、それで古くは「寺つつき」という名前で呼ばれていました。それが時が経つにつれ、いつしかテラがケラに転じてしまい、今ではキツツキをケラまたはゲラと呼ぶようになったと言われています。そして、コゲラは小さなキツツキなので、小ゲラという名前なんです。
さて、そのコゲラですが、日本では北海道から八重山諸島まで、全国の森で一年中見られる鳥です。背中の白と黒褐色のまだら模様が特徴で、雌雄同色です。ただ、オスの後頭には数枚の赤い羽根が隠れていて、風で羽毛がめくれた瞬間や興奮して羽毛を逆立てた時にチラッと見ることができます。でも、これってなかなかチャンスがないので、見られたら超ラッキーです。
声は戸がきしむような「ギー」と鳴き、頻繁によく鳴くうえ、とても特徴的なので覚えてしまえば姿を見つけるのはさほど難しくありません。小さくても立派なキツツキですから、キツツキ特有の姿勢で幹にとまり、嘴で木をつついて穴を開け、中に潜む甲虫の幼虫やアリなどを長い舌を使って捕らえ食べます。
コゲラは、季節に関係なく一年中いつでも出会える鳥なので、旬の鳥として季節を決めるのはちょっと難しいのですが、4月に取り上げたのは理由があります。それはサクラととても関係がある鳥だからです。
花の蜜が多いソメイヨシノなどのサクラは、ヒヨドリやメジロといった甘党の鳥にとってはご馳走が食べられる嬉しい樹木です。普段は虫を食べているコゲラも、実はサクラの花の蜜が好物で、蜜を吸いにやってくるのです。ただ、それほど頻繁には見られる光景ではないので、もしかしたら蜜の味を知ってしまった個体が蜜を吸いにくるのかもしれません。
さらに、サクラの枝や幹の中にはアリがよくすんでいます。コゲラはアリが大好物なので、熱心にサクラの木をつついてアリを食べる光景は比較的よく見られる光景です。お花見の最中に、木々を忙しく動き回るコゲラを見つけたときは、なんかとても良いものを見たなあという気持ちになります。
コゲラにとってサクラは、食べものを調達する場だけではありません。実は巣を作る樹木としてとても重要なのです。キツツキは、木の幹に嘴で穴を開けて巣を作ります。アオゲラなどの大型のキツツキは、とてもパワフルなので堅い生木でもガンガン掘って巣を作りますが、小さなコゲラはちょっと非力。そのため、柔らかい枯れた木でないと巣穴を掘ることができません。その点、サクラは枯れた部分が多く、コゲラが巣を作るのにとても向いているのです。
特に戦後、東京の都心部に植えられたソメイヨシノは老齢化が進み、枯れている部分がたくさん見られます。その枯れた部分の増加に従って、コゲラがどんどん都心部に進出しているのではないかという仮説もあり、今では東京の都心でも見られる鳥になっています。
私にとってコゲラは特別な鳥なんです。それはこの鳥を見たことがきっかけでバードウォッチングを始めたからです。それは小学5年生のとき、自宅の隣にあった大きな八重桜に、1羽のコゲラがいて木をつついていたのです。キツツキなんて、山の森に行かないと見られないと思っていましたから、ビックリ仰天。そのときの興奮は今でも忘れられません。あれから46年が過ぎましたが、鳥を見る熱量は一向に衰えることがなく、こうして鳥の魅力を伝える仕事をしています。
コゲラは日本中、街中でもちょっとした樹林があれば出会えるキツツキです。ギーという戸がきしむような声が聞こえたら、音がする方を注目して見てください。木を熱心につついているコゲラの姿を見つける事ができると思います。そして、私のように鳥の魅力にとりつかれてしまうかもしれません。
柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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