こんにちは。俳人の森乃おとです。
6月から7月にかけての梅雨の季節、タチアオイ(立葵)やゼニアオイ(銭葵)が真っ直ぐに茎を伸ばし、次々と花を咲かせています。薄い花びらは光を透かし、心の中まで明るく照らしてくれるようです。
「アオイ」は、現在ではいくつかのアオイ科の植物の総称、あるいは主にタチアオイの別称として使われます。この子規の俳句ではタチアオイを指します。
タチアオイはアオイ科タチアオイ属の多年草で、地中海沿岸地方原産。観賞用・薬用に中国を経て移入されました。
花茎をどんどん伸ばし、たくさんの花を搭状につけます。花は下から順に開花し、先端まで開き切る頃には、梅雨が明けるといわれます。梅雨の訪れと終わりを告げてくれることから、「ツユアオイ」(梅雨葵)という別名もあります。
ちなみに2022年の夏至は6月21日でした。夏至は最も太陽の位置が高く、日照時間が長い日。けれども日本では雨の日が続くので、なかなか実感することができません。
タチアオイもゼニアオイも名高い薬草
タチアオイの草丈は60㎝~3m。花は5弁で、花径は6~10㎝。花の色は赤、ピンク、紫、白とさまざまあり、八重咲きも好まれます。葉は手のひら形で、浅い切れ込みがあります。
またゼニアオイは、アオイ科ゼニアオイ属の多年草で、やはり地中海沿岸地方原産。江戸時代に薬用として中国より渡来しました。花の色は薄紅色が多く、ウスベニアオイ(薄紅葵)の変種ともいわれます。
タチアオイもゼニアオイも、古今東西を通じて薬草として名高く、人気のあるハーブです。タチアオイの学名はAlthaea rosea(アルテア・ロゼア)で、属名のアルテアは、「治療」を意味するギリシャ語です。英名はホリホック(Hollyhock)で、「聖地の草」の意。十字軍がシリアから持ち帰ったことに由来します。
一方ゼニアオイの英語名は、コモン・マロウ(Common mallow)。花びらを使ったお茶は、レモン汁などの酸を加えると青からピンクに色を変えることで知られます。
葵祭や「葵の御紋」の「アオイ」は別の植物
奈良時代の「万葉集」には、「葵(あふひ)」を詠んだ歌が1首だけ収録されています。ただし食べられる植物の名を列挙した歌ですので、これはゼニアオイ属のフユアオイ(冬葵)を指すと考えられています。フユアオイは食用としてアオイ科の植物の中では最も古く移入され、古代には広く栽培されていました。
アオイという名前は、{仰(あ)ふ陽(ひ)}または「逢ふ日」に通じ、フユアオイの葉に向日性があり、太陽の移動につれて向きを変える様子に由来するとされます。
平安時代に入ると和歌に多くに詠まれ、『源氏物語』では主人公・光源氏の正妻「葵上(あおいのうえ)」の名にも使われるほど、「葵」は広く愛されました。
でも、この植物はアオイ科とは無縁の、ウマノスズクサ科のフタバアオイ(双葉葵)です。フタバアオイは西日本の山林に自生し、春にハート形の2枚の葉を出し、その間から釣鐘形の地味な花を咲かせます。京都・下鴨神社で旧暦4月に行われる葵祭では、神聖な草として髪に結び付けられ、牛車を飾りました。
その双葉を三つ葉に増やし、輪の内側に巴形に配置したのが、徳川将軍家の家紋の「三つ葉葵」です。
徳川吉宗はタチアオイの油絵をオランダから輸入
アオイがなじみ深い植物になったのは、「葵の御紋」や「葵祭」で名前が浸透し、それがタチアオイやゼニアオイの美しい花の姿と結び付いたためでしょう。
徳川8代将軍・吉宗は1726年、わざわざ長崎のオランダ商館に依頼し、オランダ人画家ファン・ロイエン作のタチアオイの油絵を輸入しています。「葵」つながりで、興味を惹かれたのかもしれません。ベトナムから象を購入して江戸市中で飼育し、日本中に象ブームを巻き起こした吉宗らしいエピソードです。
アオイ科の植物は、230属4300種もあるといいます。そのなかで、「アオイ」という総称で呼ばれるのは、タチアオイ、ゼニアオイ、ウスベニアオイ、フユアオイ、トロロアオイなど。またムクゲ、フヨウ、ハイビスカス、カカオ、ドリアンなどの木本、ワタやオクラも、アオイ科の仲間です。いずれも人間の生活史に関わりの深い植物です。
タチアオイの花言葉は「大望」「野心」「豊かな実り」。たくさんの花と実をつけるためです。ゼニアオイは「温和・優しさ」、フユアオイは「気高く威厳に満ちた美」「高貴」。多様に重なり合い、変容していくイメージこそ、「アオイ」の魅力なのかもしれません。
タチアオイ(葵)
学名:Althaea rosea
英名:Hollyhock
アオイ科タチアオイ属の多年草。地中海沿岸地方原産。中国から薬用として渡来。花期は5~7月頃。梅雨の始まりと終わりを告げることから「梅雨葵(つゆあおい)」とも。
森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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