こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は英語でも「okra」と書く「オクラ」についてのお話です。
多くの日本人に好まれ、夏野菜の代表格であるオクラ。てっきり日本古来の野菜かと思っていたのだが、オクラの原産地はアフリカと言われているそうだ。エジプトでは、紀元前元年頃にはすでに栽培されていた歴史の古い野菜である。
ネバネバ食品が好きな日本では生産量も多いのかと思いきや、世界規模でみると微々たるものだ。第一位はインドで、年間を通して食べられる野菜の一つらしい。オクラは寒さに弱いので日本では夏しか育たないが、インドのような気候では次々と実が成り続けるという。
オクラが日本に渡来したのは明治初期の頃だったが、青臭さやあの粘りが敬遠され、普及しなかったらしい。日本で愛されるようになった背景には戦争の影響があるらしく、太平洋戦争の際、東南アジアの生育の旺盛なオクラに日本人兵士達は度々救われたそうだ。帰国後オクラを栽培し、品種改良を重ねて日本の風土に定着させていった。また戦後のサラダブームに乗って昭和40年頃から消費量がアップし、オクラは日本に馴染んでいったという。
私の実家では、母が生のオクラを小口切りにした「オクラのポン酢和え」がよく食卓に並んだ。小鉢の中の星型のオクラに、この世界の造形の面白さを子どもながらに感じていた。時折私も母にせがんで包丁を持たせてもらい、オクラを切った。オクラから次々と生み出される星たちは、夏休みの楽しみの一つだった。
形も面白いオクラだが、私は子どもの頃にオクラから教わった出来事がある。
ある日、母が畑からオクラと一緒に花を摘んで持ち帰っているのを見つけた。
夏空にかざせば向こうが見えそうな薄さで、優しい黄色の花びらだ。それはオクラの花びらで「オクラの花も食べられるんだよ」と母は私に教えてくれた。
まさかと思ったが、台所で母が刻んだ黄色の花びらは、普段食べる緑のオクラの部分と同じように粘りを持っていて、私には大変衝撃的だった。おままごとの時に庭の花や葉を食材に見立てて遊んでいたが、花が食べられるなんて思いもしなかった。
この時私は、オクラもその花も同じ一つの生命で、私たちは野菜という植物の食べられる部分をいただいているということを知ったのだった。
ちなみに、アフリカではオクラの若い葉もスープにして食べるという。オクラの粘りがスープのとろみとして役割を果たすそうだ。粘りが苦手な海外の人も食べやすいレシピなのだろう。
オクラはハイビスカスや木槿(むくげ)、立葵(たちあおい)などと同じアオイ科の仲間である。真夏の暑さの中でも立派な大輪の花を咲かせ、その優雅な佇まいは目を引く。
オクラの花は毎年の楽しみだったが、実家を出てからは花びらを送ってもらうのは難しく、食べることができないでいた。
大人になってから畑を借りた時に、この花を食べられるのを楽しみにしていたのだが、夕方にばかり行っていたので、一度も見ることができなかった。オクラの花は、朝に開花して夕方になると眠るように閉じ、花は1~2日の命だそうだ。子どもの頃には花がオクラの実になるとも知らなかったので、貴重な花をいただいていたのだと知った。
花を食べる機会はお蔵入りしてしまったが、またいつか食べたいものだと、毎年この時期が来るとあの頃の夏を思い出すのだった。
庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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