こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
今年の梅雨は、あまりにもあっけなく明けてしまいましたね。気象庁によると、関東甲信では最も早い梅雨明けだとか。平年ですと関東甲信では7月19日ごろが梅雨明けですから、たいていその頃までは、毎日、雨ばかりで、鳥を見に行くにはちょっと不向きな季節です。 せっかく夏鳥を求めて山に来ても、雨降りでは探鳥も諦めるほかありません。そんな日は、山奥の宿でのんびりと鳥の本でも読むのが一番とページをめくっていると、窓の外から不思議な声が聞こえてきます。
「キョロロロロロ....」
アカショウビンです。はじめは強く、だんだんと消えゆく、一度聞いたら忘れない独特なちょっともの悲しい声。しかも、かなり大きな声ですから、遠く離れていてもはっきりと聞こえます。
アカショウビンは、全国の山の森に子育てをするために東南アジアから渡ってくる夏鳥で、この独特な声をよく聞くのはちょうど梅雨の時期なんです。大きさは27㎝と数字ではハトくらいあるように思えますが、これは長いくちばしをふくめた計測値なので、実際の見た目では20cmくらいの小鳥です。
くちばしから足の先まで、とにかく全身が真っ赤。ここまで赤い鳥は、日本では本種くらいでしょうね。そして、腰にはコバルトブルーに輝く羽があり、この色が見えるとドキッとしてしまいます。雌雄で色の違いはありませんが、オスの方が色が濃く、色彩がはっきりとしています。ド派手な真っ赤な姿は、いかにも「南国の鳥」というイメージ通り、日本では南西諸島で特に多く見られます。しかし、北海道の森にも生息しているので、けっして南国の鳥というわけでもありません。
アカショウビンは、体に不釣り合いな大きなくちばしからわかるようにカワセミの仲間です。でも、カワセミの仲間が山の森にいるって、なんだか変な感じがしませんか? だって、カワセミといえば川や池にいて、ポチャンと水中にダイブして魚を捕らえる鳥ですから、森にいるなんて変です。じつはアカショウビンの獲物は魚ではなく、カエルやサンショウウオ、昆虫、カタツムリなどの森にいる小動物。だから森にいるんですね。枝にとまり、じっと目をこらして地上を動く獲物を見つけるやいなや急降下して捕らえる、そんな暮らしをしています。
ですから、森のカワセミであるアカショウビンが暮らしていくためには、小動物がたくさんいる広葉樹の森が必要なんです。また、梅雨時期はアカショウビンの繁殖期にあたり、ヒナにたくさんの食べものを与えなければなりません。雨が多いこの時期は、エサのカエルなどの小動物の動きが活発になるため、子育てには最適なんです。
そんな梅雨が旬の鳥であるアカショウビンには、「雨ふれふれ」とか「雨乞い鳥」などの雨にちなんだ別名が各地にあり、いろいろな伝説があります。その1つにこんな話があるのでかいつまんでご紹介すると...
あるとき、アカショウビンの子どもが他人の家に火をつけた。火の勢いが強くなりアカショウビンの子どもは炎にのまれてしまう。母鳥は助けようと、口で水を運んで火を消そうとしたが、そのかいもなく子どもは焼け死んでしまう。母鳥は全身大火傷。アカショウビンが赤いのはその火傷のためだ。水が足りなくて子どもを救えなかったアカショウビンは、毎年梅雨時期になると子どものことを思い出して、空を見上げて悲しそうな声で「雨フレフレフレ....」と鳴くのだという。
今にも雨が落ちてきそうな曇り空の山で聞くアカショウビンの声から、このような物語をつくる昔の人の想像力はなんて素敵なんでしょう。
さて、こんな魅力的なアカショウビンは、バードウォッチャーでなくても一度は出会ってみたい鳥です。しかし、アカショウビンがいるといわれる山の森へ行っても、声は聞こえますが姿はなかなか見られません。あれだけ目立つ色をしていますから、見つけるのは簡単と思いがちですが、不思議と緑の中にいると目立たないのです。しかも、うっそうと茂った森の中にいますから、見つけるのはなおさら困難です。「声を聞いただけでも満足」と言い聞かせて山を下りる。そんなことが私にも何回かありました。
もし、どうしてもアカショウビンの姿を見たいならば、南西諸島へ行くことをお勧めします。とくに石垣島や西表島では、街のすぐ側にもあらわれますから、美しい姿に出会うことができるでしょう。そして、「キョロロロロロ...」と鳴いてくれば最高ですね。
柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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