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キビタキ

旬のもの 2022.05.14

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

バードウォッチングが趣味というか仕事の私にとって、4月中旬から5月上旬はちょっと特別な期間なんです。それは冬を暖かい地方で過ごした鳥たちが北の繁殖地へ向かってどんどん渡っている時期だから。旅の途中には、街の中のちょっとした緑地にも立ち寄っていくので、遠くまで出かけないと見られない種類の鳥が、家の近所で見ることができるチャンスなんです。

ですから、日の出と共に目が覚めて、近所の公園へ出会いを求めて通います。そして、運良く姿が見られた日は、ものすごく得をした気分になり、一日中ハッピーに過ごせるのです。

今回紹介するキビタキも、そんな幸福な気持ちにさせてくれる鳥のひとつです。大きさは14cmほどのスズメと同じくらいの小鳥。オスは眉や喉から腹にかけてが鮮やかなオレンジ色で、腰は目の覚めるようなレモンイエロー、その他の部分は漆黒で翼には白い大きな斑がある素晴らしいデザインの美しい鳥です。

オス

一方、メスはオリーブ褐色の地味な色。メスは、巣にじっと座って卵をあたためなければならないので、天敵に見つかりにくいように地味な色をしているのです。

メス

こんな美しいキビタキに1年中出会えると嬉しいのですが、残念ながら日本の多くの地方では春から秋にかけてしか滞在しません。4月中旬頃に越冬地の東南アジアから日本に渡って来て、低山や平地の森で巣を作り子育てし、秋にはまた東南アジアへ渡っていき冬を過ごす。そんな1年を繰り返しています。ただ、奄美大島以南の南西諸島にいるキビタキは渡りをせずに1年中みられる留鳥です。

写真提供:柴田佳秀

キビタキは美声の持ち主でもあります。オスはフルートのような音色の「ピィーヨ、ポッピリリ、ポッピリリ...」と聞こえる声でさえずります。といっても個体によってさえずり方はけっこう変化があるのですが、フレーズ後半はたいてい「ポッピリリ」を繰り返し鳴くので、この部分さえ気をつければキビタキと判断できるでしょう。

キビタキに出会うためには、この美しいさえずりが何よりも頼りです。よく通る声で鳴くので存在自体を知るのはけっこう簡単です。しかし、鳴いている姿をバッチリ見ようとすると話は別。なにしろ、葉が茂った高い梢で鳴いている事が多いため、葉に隠れて姿がよく見えないことがほとんどなんです。

写真提供:柴田佳秀

さらに、街中の公園などで見られる渡りの途中の場合は、本格的に鳴くことに集中していないので、鳴きながら枝から枝へどんどん移動してしまうため、見つけるのは本当に難しいのです。また、意外なことに、あれほど鮮やかな黄色は新緑の中では目立たず、これまた難易度が高くなります。それでも何とかレモンイエローの美しい姿を見つけられた時は感激ひとしおです。

ところでキビタキの英名は、Narcissus Flycatcher(ナルキッサス・フライキャッチャー)と名づけられています。これは植物のスイセン(色)のヒタキという意味です。日本のスイセンは白と黄色の花ですが、海外では黄色の花というイメージみたいで、この鳥の鮮やかな黄色をスイセンに見立てたのでしょう。

写真提供:柴田佳秀

スイセンの英名のナルキッサスは、元々はギリシャ神話に出てくる美少年ナルキッソスのこと。水面に映った美しすぎる自分の顔に恋して水に落ちて命を落としてしまい、やがてそこに咲いたスイセンの花に彼の名前をつけたという伝説があります。自分を愛してやまない人をナルシストといいますが、その由来となったエピソードでもあります。

写真提供:柴田佳秀

近所の公園で出会ったキビタキも、今頃は旅を終えて繁殖地に到着しているころのはず。もしかしたら、水に映った美しい自分の姿を見てうっとりしているかもしれませんね。

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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