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メタセコイア

旬のもの 2022.11.30

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

晩秋から初冬に入り、メタセコイアの木の葉が燃えるようなレンガ色に染まり、一年の最後の月を彩りはじめています。雄大な並木道を歩くと、針葉樹でありながら落葉する葉は、あくまで優しく柔らかく、「生きている化石」と呼ばれるメタセコイアの太い幹にもたれると、地球上の生物としての大先輩が、おおらかな愛情で支えてくれるかのような、安心感に包まれます。

1946年に中国で生存が確認された「生きている化石」

メタセコイアはヒノキ科(またはスギ科)メタセコイア属の落葉針葉樹で、1属1種。日本を含む北半球各地の新生代第三紀(約6600万年前~360万年前)層で化石が発見されており、100万年前に絶滅した植物と考えられていました。

1941年(昭和16年)に、植物学者で京都帝国大学理学部講師だった三木茂博士が関西で発掘した化石を分析した結果、落葉性の新種と考えて「メタセコイア」と命名。ところが、その植物が中国で生存していることが確認されたのは、そのわずか5年後、第二次世界大戦が終結した翌年の1946年(昭和21年)のことでした。

メタセコイアをよみがえらせた日中米3カ国の学者の協力

三木博士は、メタセコイアと命名した直後に出征しますが、それに先立って論文を各国の研究者に郵送していました。その論文を読んでいた2人の中国人研究者が四川省、次いで湖北省の奥地で「水杉」(スイサン)と呼ばれていた新種の針葉樹を調査し、三木論文にあるメタセコイアだと確認します。「メタセコイア生存」は世紀の大ニュースとして、戦後まもなくの時代を明るく照らしました。

この報を受けて、メタセコイアの保護と普及にすぐに乗り出したのが、米カリフォルニア大の古生物学研究者のラルフ・ワークス・チェイニー教授。英名 “dawn redwood”の命名者です。中国に渡って苗木を持ち帰り、1949年に昭和天皇に献上しました。これが最初に日本で植えられたメタセコイアの木になりました。

また、翌1950年には昭和天皇に拝謁。三木博士らによって日本にメタセコイア保存会が設立されると、100本の苗木を贈りました。その結果、メタセコイアの植樹は一大ブームとなり、今日では全国の公園、学校、街路でごく普通に見かけられるようになりました。

昭和天皇の愛した樹木――わが国の たちなほり来し 年々に あけぼのすぎの 木はのびにけり

1987年(昭和62年)の新年歌会始における昭和天皇の御製の歌です。
「あけぼのすぎ」(曙杉)はメタセコイアの和名で、英名のdawn redwood(夜明けの赤い木)を訳したものです。戦後日本の復興と、皇居に日本で初めて植えられたメタセコイアのすくすくと育つ様子を重ね合わせた感慨を詠っています。

全国各地に名所が誕生

メタセコイアという名前は、近縁種のセコイアに「あとの、変化した」を意味するギリシャ語の接頭辞「メタ」を加えたものです。セコイアは米国カリフォルニア州の海岸地帯に自生。世界最大の木として知られ、樹高は100mに達します。樹齢は400~1300年で、今も成長を続けています。

日本に植えられたメタセコイアはまだ70歳余にすぎませんが、成長は早く、樹高20~30mの立派な巨木に育っています。滋賀県高島市マキノ高原や東京都葛飾区の水元公園など、日本各地にメタセコイアの名所があり、人々を楽しませています。

花言葉は「平和」

メタセコイアの花期は2 ~3月。果期は10~12月で、果実は球形。また、春から秋にかけての時期も、葉は常に新緑のように明るく華やいでいるのが魅力的です。葉は細長く羽状に対生し、長さは1~2㎝、幅は1~2㎜程度。小さな枝ごと落ちるので複葉に見えますが、これはヒノキ科の植物の特性です。光に合わせて向きを変えている小さな単葉の集まりであって、複葉ではありません。

メタセコイアの花言葉は「平和」。メタセコイアがよみがえるのに日中米3国の学者の協力があり、また、中国から世界に贈られる苗木は「静かなる平和の使者」と呼ばれていたといいます。花言葉には、戦争のない世界への希望と祈りが込められているのかもしれません。

メタセコイア 

学名  Metasequoia glyptostroboides 
英名 dawn redwood
和名 アケボノスギ(曙杉)
ヒノキ科(またはスギ科)メタセコイア属の落葉高木。川辺や湿地に生える落葉針葉樹。中国では「水杉(スイサ)」と呼ばれる。針葉樹では珍しく紅葉し、落葉する。円錐形の整った樹形が愛でられ、公園樹や街路樹として植えられる。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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