今日の読み物

読み物

お買い物

人気記事

特集

カート内の商品数:
0
お支払金額合計:
0円(税込)

タンチョウ

旬のもの 2023.01.07

この記事を
シェアする
  • X
  • facebook
  • B!
  • LINE

明けましておめでとうございます。科学ジャーナリストの柴田です。
今日、1月7日は松の内最終日、また地域によっては15日までが松の内とされるそうなので、いずれにしても今日はまだお正月。今回は、そんなお正月にふさわしいおめでたい鳥であるツルのタンチョウを紹介しましょう。

ツルの仲間は、世界で15種が知られている水辺にすむ大型の鳥。そのうち、半数近くの7種が日本で見られるなんて知っていましたか? 中国には9種のツルがいるので世界一の座は譲りますが、日本はそれに次ぐ世界有数のツルの国。ですから、世界を股にかけるバードウォッチャーにとって、ツル類をコンプリートするためには日本はぜったいに外せない観察地なんです。

そんなツルの中でも、最もツルらしいといえばタンチョウでしょう。頭のてっぺんが赤く、黒と白のシックな色合いの姿は、正にツルの中のツルといった存在です。タンチョウは日本最大級の鳥で、背丈は約150cmほど。大人の女性と同じくらいの高さですから、近くに来るとちょっと怖いような威圧感があります。

さて、たまにタンチョウヅルと書かれることがありますが、正しい和名はタンチョウで鶴はつきません。漢字では丹頂と書き、丹は古い言葉で赤を意味し、頭の頂が赤いことに由来します。ちなみに、この頭の赤い部分は雄にも雌にもあり、羽毛はなく表面がぼつぼつした皮膚が露出しています。ここはタンチョウの心の状態を表している部分で、興奮すると大きく広がり赤みが増します。正に頭にきていることをアピールしているのです。

日本でタンチョウに出会うには、北海道の道東へ行かなければなりません。ときどきは北海道以外にもポツンと現れることがありますが、やっぱり本場は北海道です。国外では、ロシアと中国の境を流れる極東のアムール川とその支流の地域にタンチョウが分布しています。

冬の雪原に群れているタンチョウの光景は、ニュースなどの映像で見るので、もしかしたらハクチョウと同じように夏はシベリアにいて、冬は日本で越冬する渡り鳥と思う方がいらっしゃるかもしれません。実際には日本のタンチョウは渡り鳥ではなく、1年中、北海道にいる留鳥です。夏は主に道東の湿原に分散して子育てをし、冬になって雪が積もると釧路地方にある給餌場に集まる暮らしをしています。

かつて日本のタンチョウはとても数が少なく、絶滅寸前の時がありました。1952年に行われた調査で確認された数は、たった33羽。あまりにも危険な状況なので、日本政府は特別天然記念物に指定。給餌を積極的にするなどの保全活動を行った結果、現在では約1800羽まで個体数が回復しています。私も、今から30年以上前にタンチョウの個体数調査のお手伝いをしたことがありますが、そのときの個体数は400羽ほどでしたから、ずいぶん増えたなあと嬉しく思います。

そうそう、ツルが何故めでたい鳥なのか触れないわけにはいけませんね。それは「鶴は千年、亀は万年」という言葉があるように、長寿の象徴とされてきたからです。これは中国の故事に因んで日本に伝わった話ですが、さすがに実際のツルが千年も生きることはありません。では、本当のところツルの寿命はどのくらいなのか気になるところです。

しかしながら、野生動物の寿命を正確に知るのは超難問です。なにしろ、肝心な誕生日がわかりませんからね。それでも、日本の動物園で飼われていたタンチョウでは36年の記録が最高で、海外の動物園で飼われていたソデグロヅルは、61年9ヶ月という記録があるそうです。

じつは、タンチョウは野生でも年齢が判明している鳥がいます。研究者によって足に番号が書かれているリングをつけ放された個体がいて、そのなかには2020年時点で、29年間生きているタンチョウが2羽いることがわかっています。大きな鳥ですから、成鳥になるとあまり天敵らしい天敵がいないので、電線や交通事故などさえなければ、飼育と同じくらい長生きするのかもしれません。これからも事故がなく、ずっと元気でいてもらいたいなと思います。

この記事を
シェアする
  • X
  • facebook
  • B!
  • LINE

柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

記事一覧

オフィシャルウェブサイト