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マンサク

旬のもの 2023.01.09

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

寒の入りとともに、一段と寒さが厳しくなってまいりました。けれど春はすぐそこ。太陽の光は日に日に力を増しています。今回は、他に先駆けて黄色い花を咲かせ、春を呼ぶ縁起樹として愛されるマンサク(万作、満作、金縷梅)をご紹介します。

日本固有種で、19世紀にシーボルトが紹介

マンサクは、マンサク科マンサク属の落葉小高木。日本の固有種で、北海道から九州までの山地に自生します。学名はHamamelis japonica(ハマメリス・ジャポニカ)。属名はギリシャ語の「Hamos(一緒に)」と「melis(リンゴ)」の合成語で、花の後にできる果実の印象から。ドイツ人医師のシーボルトと同国人の植物学者ツッカリーニが一緒に命名し、1845年にヨーロッパに紹介しました。

マンサク属は東アジアと北アメリカに4種ほど存在しますが、ヨーロッパで人気が出たのは、やはり19世紀に中国から持ち込まれた、大柄のシナマンサクでした。

春に真っ先に咲くので「先ず咲く」

和名の由来は、春に真っ先に咲くから「先(ま)ず咲く」。それが東北方言で「先(まん)ず咲く」になったという説があります。また、田んぼの縁に植えられたマンサクは、田の神が春に山から戻る際に宿る「依代(よりしろ)」になると考えられていました。
「マンサクの花が上向きに咲いた年は豊年満作」などと、その年の吉凶を占ったから「満作」「万作」という名前がついたという説もあります。

ちなみに、サクラやコブシ(東北ではコブシザクラと呼ばれます)の木も、やはり田の神の依代だと考えられていました。

金属製のリボンのような4弁花

樹高は3~6mほどで、花期は2月~4月。葉に先駆けて黄色の花を房状につけます。花弁は4枚で、長さ10 ~15㎜、幅2 ㎜前後の細長いひも状をしており、暗赤色の萼片(がくへん)の中にゼンマイのように折りたたまれています。このため、開き始めたばかりの花弁は皺が寄り、あちこちに反り返っています。

別名は「金縷梅」。「キンロウバイ」とも「マンサク」とも読ませます。縷「ろう・る」とは糸などの細長い物を指す漢字で、マンサクの花弁が金属のリボンのように見えることから生まれた名前です。

樹皮は雪国の合掌造りの材料に

古くからマンサクは、葉は生薬に利用され、樹皮を縄として使うなど、暮らしの中で多様に役立ってきました。
マンサクの樹皮は繊維が丈夫で、「ネソ」と呼ばれます。合掌造りで有名な岐阜県白川郷では、これを柱や桁(けた)に巻き付けて、結束するのに使います。「マンサクを使うと80年は持つ」といわれるそうです。

また、雪国では雪の上を歩行する時に、足がめり込んだり滑ったりしないように「かんじき」と呼ばれる歩行具を用いてきました。木の枝や樹皮を円く撓(たわ)め、靴やわらじの下に着用するもので、マンサクはその材料にもなりました。

花言葉は「幸福の再来」「魔力」「霊感」「ひらめき」

長い冬に耐え、春の訪れが近いことを告げてくれることから、マンサクの花言葉は「幸福の再来」です。

まんさくの ぬくもりほどで よろしいの――直江裕子

春先に咲くマンサクの花にまだ十分な「ぬくもり」はありません。それでもその黄色い花色は、やがてくる幸せを約束してくれるようです。現代俳人・直江裕子氏の句からは、いじらしさと一途さが伝わってきます。

ほかの花言葉は、「魔力」「霊感」「ひらめき」など。ちなみにマンサクの英名は「witch hazel」(魔女のハシバミ)。よじれた花弁が魔女の髪を連想させるのでしょうか。洋の東西を問わず、マンサクには神秘的な力があると信じられているようです。

吉兆の 糸を繰り出す 花まんさく――佐藤美恵子

マンサクにあやかり、皆さまにとりまして、新たな年がより良き年でありますように。

マンサク(満作、万作、金縷梅)

学名Hamamelis japonica
英名Japanese witch hazel
マンサク科マンサク属の落葉小高木。日本固有種。2月~4月に黄色い4弁花を房状につける。花が赤いアカバナマンサクや、大柄のシナマンサクも人気がある。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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