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ミズヒキ

旬のもの 2021.10.04

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こんにちは、俳人の森乃おとです。

10月に入り、日の光も透明感を増したようです。鳴く虫の集(すだ)く声もいよいよ高まり、ミズヒキが長い花茎に小さな花をひっそりと咲かせています。その朱の色の意外な華麗さは「落ちる秋」の訪れを知らせてくれるのです。

名前の由来は、花茎の姿が「水引」の飾りに似ているから

ミズヒキはタデ科イヌタデ属の多年草。日本全土と中国、ヒマラヤの日当たりの良い林床や路傍に生育します。
草丈は20~50㎝。8~11月に葉のわきから、20~40㎝の長い線のような花茎を伸ばし、1~2mmの小さな花を点々とつけます。花には花弁がなく、硬い蕚(がく)に包まれています。蕚は紅白に染め分けられていて、上から見ると紅に、下から見ると白に見えます。
蕚はいったん4つに裂けますが、すぐに再び閉じ、果実が熟するまで保護し続けます。その姿は、まるで小さな赤い米粒が並んでいるようです。

ちなみに、名前の元になった贈答品に飾りとしてつける紅白の「水引」は、和紙を撚(よ)った紐に、糊(のり)を溶かした水を引いて固めたもの。ミズヒキの紅白の花穂は、その水引を思わせます。

ところで、「水引」の起源ですが、室町時代の日明(にちみん)貿易の慣行から生まれたという説があります。日明貿易では、日本側からの贈り物に対して、中国側が返礼品を与えるという形式を取っており、中国から提供される品物にはすべて紅白の麻縄が巻かれていたといいます。

あるかなきか 茂みのなかにかくれつつ 水引草(みづひきぐさ)は 紅(べに)の花もつ 九条武子(くじょう・たけこ)                   

あるのかないのかわからないほど小さなミズヒキの花ですが、よくよく見ると、その紅色は意外に深くきらめいています。ミズヒキの隠れた美しさをとらえた静謐な短歌です。
作者の九条武子(1887-1928年)は、やはり歌人の柳原白蓮(やなぎはら・びゃくれん)らとともに「大正三美人」の一人として知られます。

戦前に夭逝した詩人・立原道造(たちはら・みちぞう=1914-1939年)の抒情詩「のちのおもひに」(詩集「萱草=わすれぐさ=に寄す」収録)もまた、ミズヒキのイメージをよくとらえています。

夢はいつもかへって行った
山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない 
しずまりかへった午さがりの林道を

ミズヒキは微かな風にも反応します。静かにいつまでも揺れているミズヒキの赤い花穂と、「草ひばり」の優しい鳴き声。「草ひばり」は「フィリリリリ」と澄んだ声で鳴く、小さな樹上性のコオロギの仲間。作家・小泉八雲(=ラフカディオ・ハーン)がこよなく愛した秋の虫として知られています。
立原道造の夢が帰ってゆく秋の昼下りの林道は、なんとあえかな美しさと安らぎに満ちていることでしょう。

キンミズヒキは全くの別種、ギンミズヒキは近縁種

ミズヒキに名前と雰囲気がよく似た植物にキンミズヒキ(金水引)があります。夏から秋にかけて細長い花茎を伸ばし、黄金色の小さな花を、やはりまばらにつけます。けれども、これはバラ科キンミズヒキ属の多年草で、近縁関係は全くありません。

キンミズヒキ

一方、ミズヒキなのに花が赤くならず、白いままの種もあります。こちらはキンミズヒキと対比して、ギンミズヒキ(銀水引)と呼ばれます。
ミズヒキの葉には、多くの場合、タデ科植物に特有の八の字型のマークが出現します。ギンミズヒキも同様です。キンミズヒキの葉には、このマークがないので、容易に区別ができます。

ギンミズヒキ

花言葉は「慶事」「感謝の気持ち」

ミズヒキの花言葉は、飾り紐の水引から名づけられたため、「慶事」と「感謝の気持ち」。キンミズヒキも同じで「感謝の気持ち」です。

ミズヒキ(水引)

学名Persicaria filiformis
タデ科イヌタデ属の多年草。日本全土と中国、ヒマラヤに自生。 草丈は20~50㎝。花期は8~11月。20~40㎝ほどの長い花茎に沿って、小さな花を破線のようにつける。花は紅白に染まり、上から見ると紅、下から見ると白く見える。黄色い花をつけるキンミズヒキは全くの別種。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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