こんにちは。気象予報士の今井明子です。
そろそろ春の便りが少しずつ聞こえてくる今日この頃。しかし、早春に見ごろを迎えるのが、流氷です。
流氷といえば、ご存じ北海道のオホーツク海沿岸に漂着する氷で、海が凍ったものです。流氷が着岸したというニュースを聞くたび、「北海道って海が凍るほど寒いんだなあ…」と思ってしまう人は多いはず。しかし、それは大いなる誤解です。実は、オホーツク海は世界の中ではもっとも低緯度で凍る海なのです。その証拠に、同じ緯度の太平洋は凍りません。そして、ロンドンやパリは北海道のオホーツク海沿岸よりも高緯度です。
ではなぜ、オホーツク海は低緯度なのに凍りやすいのでしょうか。それはオホーツク海の地理的な条件が大きく影響しています。
冬は海よりも大気のほうが冷たいため、冷たい空気にさらされた水面から冷やされ、その冷やされた水面近くの水は重くなって海底にまで沈みます。そして、海底の水が上昇し、水面付近で空気で冷やされてまた下降します。これを繰り返して海水が冷えていき、水面から海底までが-1.8℃以下になると凍り始めるのです。
ここで、オホーツク海というのは、ロシアのアムール川が流れ込むため、水面から50mほどの深さまでの塩分濃度が低く、それより深い場所は塩分濃度が高いです。塩分濃度の高い海水は重いので底のほうに沈んでおり、塩分濃度の低い表層付近の海水と混ざり合うことはありません。ということは、冬の冷たい季節風が吹きつけるオホーツク海の水面付近の海水は、塩分の低い水深50mまでの範囲でぐるぐると循環するのです。
こうして、オホーツク海では水深約50m分の海水だけが冷えていくため、それよりもずっと深いところまで海水が循環する太平洋や日本海よりも早く水温が-1.8℃以下になります。それで、ほかの海よりも早く凍るのです。しかも、オホーツク海はサハリンで日本海と区切られ、千島列島で太平洋と区切られているため、北から流れてきた流氷が北海道にまっすぐたどり着きやすいのです。
真冬の北海道は寒いものですが、それでも本来なら北極海などでしか見られないような海氷が見られるというのは実はとても珍しいこと。そう考えると、一度は流氷を見に行ってみたいなあと思います。
今井明子
サイエンスライター・気象予報士
兵庫県出身、神奈川県在住。好きな季節はアウトドア・行楽シーズンまっさかりの初夏。大学時代はフィギュアスケート部に所属。鯉のいる池やレトロ建築をめぐって旅行・散歩するのが好き。
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