こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は筍料理についてのお話です。
春になると一度は食べておきたくなる筍。「春の皿には苦味を盛れ」ということわざを代表する食材の一つだ。
実家では父が山に入って掘ってきてくれていた。まだ土から出ていない筍の穂先を、父は足だけで探し出す。まるで魔法のようで、私も真似して足で土を探してみたが、一度も見つけることは出来なかった。
この時期になるとありがたいことに、母が水煮にした状態の筍を送ってくれる。えぐみが多少あるが、筍はこういうものだと思っていた。
料理の仕事を始め、ある年に茶道の初釜の点心の担当となり、若竹煮を作る機会があった。
実家の筍はもう終わったと聞いたので、朝掘りの京たけのこを買うべく、専門店へ買い出しに向かった。
毎年タダで食べられる環境でぬくぬく育った私は、筍の値段に驚いた。一瞬で食べ切ってしまいそうな大きさなのに、なかなかのお値段である。
若竹煮を盛り付ける際には、美味しくて見栄えの良い穂先の部分は一人に一つずつ添えたい。そうなると、いくつか買う必要がある。少し悩んだが、大事な席の食材だ。えいやっと買って、大事に抱えて帰った。
筍は米ぬかでアク抜きをする。筍をこうやって湯がいてくれていたんだなあと、母のように台所に立って、その有り難みにやっと気がつく。
湯がいた筍を冷やし、包丁を入れておいた竹皮に沿って指を入れてそっとむくと、白くて可愛い筍がするりと顔を出した。穂先がとても柔らかそうだ。かたちを崩さないように慎重に切り揃え、出汁でさっと炊く。
味見してみると、淡い香りとともに、筍がすっと喉を通っていった。しょうがないと思っていた、あの「えぐみ」がほぼない。京たけのこは美味しいと聞いていたが、こんなにも違うとは。もっと食べてしまいたいところをぐっと我慢。翌日、無事に点心の一品としてお出しすることができた。
実家では採れたての筍はすぐさま下処理されるが、どうしてもえぐみが残ってしまう。なぜ京たけのこはこんなに美味しいのだろうかと調べてみることにした。
京都の洛西の一帯では、江戸時代から筍が栽培され、京野菜として料理に使われてきたという。京たけのこはえぐみの無い白い筍で、刺身にできるほど柔らかい。土質が粘土質で竹の子の生育に最適なのだという。
さらにこの品質を維持するために、手間ひまをかけて土地が管理されているそうだ。私は、筍は雑木林に分け入って掘り出すというイメージだったが、京たけのこは十分な太陽が注ぎ込むよう親竹同士の間隔が整えられている。そして12月の上旬になると一面にワラを敷き、その上に土入れを行うという。大変な重労働だが、柔らかな筍を作るためには、欠かせない作業なのだそうだ。野菜を作る畑と同じように手間ひまをかけ、長年受け継ぐことで京たけのこのおいしさは保たれている。
実家の山も定期的に竹の整備を行っていたが、土の管理まではしていない。また、年々山に入る頻度は減っている。昨今は農家の高齢化が進み、全国的にも放置された竹林が増えてきているという。実は竹林を維持するための方法のひとつとして、メンマづくりが注目されつつあるらしい。
私もここ2年ほど「メンマづくり」に挑戦している。
人の背丈ほどに伸びた若竹の先端1mほどを収穫して、塩漬け発酵、乾燥させて湯戻ししたのち、味付けをしてメンマにするのだ。
私は京都の長岡京市の孟宗竹の若竹を分けてもらっている。1年目は塩漬けの重石が軽く、水が上がり切らずにカビさせてしまい失敗した。2年目は少し湯戻しが短かったようで、やや塩辛かったが作ることができた。本来のメンマの麻竹とは種類が違うので食感も少し異なるが、冷凍させておいて、ラーメンのトッピングやおつまみとして楽しんでいる。今年の春も試行錯誤しつつ、美味しいメンマを作ってみたいと思っている。
「美味しい筍や、メンマが食べたい!」という気持ちで、季節の食材を楽しむ。純粋な疑問からその背景を知ったり、実際に作ってみる中で、自然にその食材の世界に参加したりできたらいいなと思っている。
庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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