こんにちは。俳人の森乃おとです。
春爛漫の季節を迎えました。多くの樹木が花を咲かせる中で、ひときわ可愛らしいのがドウダンツツジ(灯台躑躅/満天星)です。スズランに似た白い小花をいっぱいに吊り下げて、そよ風が吹けば鳴るかのように揺れる姿を目にすると、優しく温かい気持ちがあふれてきます。
ドウダンツツジは、ツツジ科ドウダンツツジ属の落葉低木。ヒマラヤからアジアにかけ約10種類が分布し、そのうち4種ほどが日本で自生しています。
樹高は通常1~3mですが、自然に生育しているものは6mを超えることも。花期は4~5月、花径は7㎜ほどの大きさです。菱形の葉は通常2㎝程度で、枝先に輪生します。
一般のツツジ属との違いは、花の形。ツツジ属の花が5弁に見える合弁花なのに対し、ドウダンツツジ属は、下から見ると5角形に膨らんだ小さな壺の形をしていて、縁が浅く5つに折り返されています。
俳人・随筆家の楠本憲吉の句は、壺形の花をかわいらしい豆ランプに見立てることで、春の朝の明るむ森の中に、ドウダンツツジの白い小さな花が点灯するかのように浮かび上がってくる情景を詠みました。
学名の「Enkianthus(エンキアンサス)」は、ギリシア語で「妊娠」を意味する "enkyos" と「花」を意味する "anthos" の合成語。ドウダンツツジの膨らんだ花の様子にちなみます。
満天の星のように輝く花
和名は、枝分かれの様子が宮中などで室内照明に使われていた「結び灯台」に似ていることから。3本の棒を中央で縛って立たせ、上部に灯明台を置いた照明器具です。そのため「灯台(とうだい)ツツジ」と呼ばれ、それが訛(なま)って「ドウダンツツジ」になったとされます。
またドウダンツツジには「満天星」という漢字表記もあります。これは、中国の伝説によります。
昔のこと、道教の神様である太上老君が霊薬を練っていた時、誤ってこぼした玉盤の霊水がドウダンツツジに散りました。すると霊水は凝って壺状の珠になり、満天の星のように輝いたのだとか。
1991年2月、日本人の天文ファン2人に発見された小惑星6786は、この花にちなんで「満天星」(どうだんつつじ)と命名されましたが、なんとも浪漫を感じさせられます。
「日本植物分類学の父」牧野富太郎が原産地を発見
ドウダンツツジは、可憐な花が鈴なりに咲く春から、美しい新緑の初夏、そして見事に紅葉する秋まで、長く楽しむことができる樹木です。強い剪定にも耐え、球形や直方体など自在に形を整えられるため、江戸時代には庭木として植えられて観賞されたともいわれます。
しかし、一般にもよく知られるようになったのは、明治の元勲・山縣有朋に愛され、京都の別荘「無鄰菴(むりんあん)」や東京の自邸(現・椿山荘)の庭を造る際、好んで植えさせたことから始まるのだそうです。
しかし、原産地が不明だったため、ドウダンツツジは長い間、中国渡来の木だと考えられていました。
その原産地を発見したのは、日本植物分類学の父と呼ばれる牧野富太郎博士(1862-1957年)。高知県佐川町出身の牧野博士は大正2年(1913年)、同郷の植物学者・吉永虎馬氏とともに、佐川町に隣接する日高村の錦山で、ドウダンツツジの原種を確認しました。
錦山の名は、秋になるとドウダンツツジの紅葉で、全山が赤く染まることに由来します。その後、房総半島や伊豆半島、中国山地など、マグネシウムを多く含む蛇紋岩地帯で、続々と原種の発見が相次ぎました。
ドウダンツツジの花言葉は「上品」「節制」、そして「わたしの思いを受けて」。
「上品」は清楚で可愛らしい花姿から。「節制」は厳しい環境に耐えられる強さを持つことにちなみます。「わたしの思いを受けて」という情熱的な花言葉は、「満天星紅葉(どうだんもみじ)」とも呼ばれる、真紅に燃える火のような美しい紅葉からでしょう。
2023年前期、NHKの連続テレビ小説の主人公は、ひたむきに植物への情熱を燃やし続けた孤高の博士、牧野富太郎がモデルです。博士は「好き」を貫き、ほぼ独学で植物研究に打ち込み、やがて世界に名だたる偉大な植物学者になりました。
現代俳人の折井紀衣氏は、「天には星があり、大地には満天星(どうだん)の花が咲き満ちている」と詠みました。星に願いをかけるように、博士の愛したドウダンツツジに、大切な夢や希望を託せば、きっとかなうような気がします。
ドウダンツツジ
学名: Enkianthus perulatus
和名: 灯台躑躅/満天星(ドウダンツツジ)
英名: Enkianthus, Dodan-tsutsuji
ツツジ科ドウダンツツジ属の落葉低木。日本・中国原産。樹高1~6m。花期は4~5月。
よく似た近縁種に、花に紅色の筋が入るサラサドウダンがある。
森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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