今年はなんだか雨が多いなぁと思っていたらもう関西は梅雨入りだそう。
降りしきる雨の音が、静かな空気を包み込んでいく様子を見ていると、
なんだか毎年、徐々に爽やかな季節が短くなっていくようで、どこか寂しい気持ちの漬物男子田中友規です。
実山椒が店先に並び出す時期といえば、徐々に強くなる陽の光とフワリと吹き抜ける風が心地いいものだと思っていたのですが、すでに蒸し暑い。
これは実山椒を効かせた麻婆豆腐でも作って、辛さと痺れで鬱屈した気分を切り替えたいところです。
魚介にも肉類にも野菜にも迎合しない山椒の味と香りの独立性は、
癖になるのに、不思議と飽きることがない。手に入れた実山椒は鮮やかな緑色で、ひと粒つまんでみるとスッと青い芳香を放ちます。
日々の料理のアクセントに重宝するので、いつもたくさん塩漬けにして仕込むのですが、実山椒の仕込み方はけっこう手間がかかります。
まずは流水で房についた汚れを落とし、水気をしっかりと拭き取ります。
茎は食感が悪くなるので、ひと粒ずつ摘んで分けていくのですが
これがまぁ時間のかかることかかること。
ぷちぷち、ぷちぷち。
欲張ってたくさん実のついたものを選んだばっかりにこれは1時間以上かかりそう。山椒のアクで指を茶色く染めながら、ぷちぷち、ぷちぷち。
よく見ると粒の表面には、毛穴のようなくぼみがたくさんあってまるで青いライムのよう。香りもミカンの皮を干して砕いた陳皮のようにも感じます。あれ?山椒ってひょっとしてミカンなの?ふと気になって、調べてみるとやはりミカン科。じっくりと観察していると意外な発見があるものです。
そうか、この爽やかな香りはミカン由来だったのか。
とすれば、飲み物にしても美味しいはず、と一瞬で麻婆豆腐のことは頭からぽんっと抜けてしまい、半分ほど茎から外し終わった粒を熱湯であく抜きします。ひと煮立ちさせてザルにあげ、そのままフードプロセッサーにいれて実山椒を荒くみじん切り状態に。
これを冷たい水に浸しておけば山椒ウォーターができるはず。
よくリゾートホテルのロビーなんかにあるライムウォーターのようなイメージで、山椒の香りを移してもアリなのでは?と思いついたのです。
小一時間もするとしっかりと水に山椒の香りが行き渡り、「山椒水」の出来上がり。ソーダ割りなら炭酸水と山椒水を7:3程度。冷蔵庫に余っていたスダチを絞って、梅雨の暑苦しさを払拭するドリンクの完成です。
山椒水は、お刺身をさっとくぐらせても合いそうですし、出汁に加えても
姿は見えないのにしっかり仕事をしてくれそうです。
窓の外の雨露を眺めながら山椒ソーダに舌鼓。
じとっとした梅雨のこんな時期ですから、ちょっと刺激的なお飲み物、ぜひお試しください。
田中友規
料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。
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