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丸なす

旬のもの 2023.07.21

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漬物男子田中友規です。

一年に一回くらいどうしても食べに行きたくなる店ってありますよね。
僕の場合は、京都の上賀茂にある古い食堂のサバ煮定食で、骨がほろほろになるまで煮込んだ武骨な真っ黒い姿はなかなか自宅では再現できる代物ではありません。
別段、美食!というわけではないのだけれど、白飯をサバ煮のおつゆで掻きこみたい衝動についつい駆られ、ふと気づいたら上賀茂におりました。

ちょうどその日は上賀茂神社では夏越しの祓のタイミングでした。半年間の罪や穢れを祓い、今年の後半戦も健康に過ごせるように茅の輪をくぐって祈願します。以前、すぐき漬の季節に訪れた時は街全体が酸味の香りに包まれて冬の営みを感じた上賀茂ですが、夏はまた別の趣。

じわじわと上昇する気温が、祇園祭を迎えるまでの助走のようで、どことなく漂うそわそわを感じます。まだ食堂は準備中だったので神社を散策していると、はたと上賀茂神社には変わったおみくじがあるのを思い出しました。

写真提供:田中友規

上賀茂神社の周辺では夏は賀茂なす、冬はすぐきの産地として有名で
ぷっくりとした丸なすをモチーフにした粘土の焼き物に入ったおみくじがあるのです。
かわいいでしょ。

「吉」のおみくじに目を通し、境内にくくりつけたらそろそろ食堂が開くころ。お店の前にはもう先客が数人。夏の行列だけは勘弁という僕ですがここだけは我慢してなんとか着席できました。

写真提供:田中友規

サバ、ごはん、サバ、味噌汁、ごはん、サバ。
黙々と箸は止まりませんが、さっき丸なすを見たせいで漬物が欲しい!
ちょっとした浅漬けがついているものの、頭の中はもう丸なす一色。
完食後、サバ煮を1パックお土産に手に入れて、次は丸なすの漬物探し開始です。

こういう産地ではどこかしこにお漬物屋があるはずなのであえて地図はなし。
ふらふらと鼻だけで店を探していると、とんでもないものを見つけてしまいました。

写真提供:田中友規

賀茂茄子の粕漬とは。
いままで様々な地域で漬物を探してきましたが、これは初見。

家に帰ってさっそく取り出してみると丸なすが、ぺたんこなすになっている!
酒粕で長期間熟成され、巨大な椎茸のような異様な物体となっています。

一切れつまみ食いしてみると、ぶわっと香り立つ酒粕に
ぐにっとしたなすの重厚な食感が加わり高貴な味わいです。
夏だけの丸なすかと思っていましたが、この粕漬は一年前のものだそう。
漬物は、野菜のタイムマシンなんですね。

写真提供:田中友規

そのままではちょっと濃い目の味は予想通り、
お土産のサバ煮、加茂なすの粕漬。これ以上白ごはんが進む献立はないですよね。
結局、昼も夜もサバ煮定食をいただいてしまいました。

すっかり住み慣れた京都と思っていましたが、なすの漬物ひとつ取っても
まだまだ知らない味があるものです。

来年あたり、あの食堂でも出してくれないかな。

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田中友規

料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。

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