こんにちは。俳人の森乃おとです。
梅雨が明けて本格的な夏の訪れを迎えると、あちこちの空き地や道端で、ゲンノショウコ(現の証拠)の花を見かけるようになります。花の色は東西で系統が異なり、東日本では白くて清楚、西日本ではピンクで可憐なものが多く見られます。小さな花ながら、何かオーラを感じてしまうのは、薬草として昔から名高いせいでしょうか?
三大民間薬の一つで「医者いらず」とも
ゲンノショウコはフウロソウ科フウロソウ属の多年草。日本全土と、中国、朝鮮半島、台湾の山野に自生します。
タンニンを多く含むため、タンパク質を固定する作用があり、古来より、下痢止めや胃腸病に効能がある薬草として有名でした。
一風変わった和名の由来は、煎じて飲むとその効果がすぐ現れるところから。地方によりイシャイラズ(医者いらず)やイシャゴロシ(医者殺し)とも呼ばれ、タチマチグサ(たちまち草)、テキメンソウ(覿面草)などの異名も生まれました。
ドクダミ、センブリと共に、日本の「三大民間薬」に数えられます。癖のない味なので、お茶としてもおいしく飲めます。
「ゲンノショウコの源平合戦」
花期は7~ 10月。茎は当初、地表を這うようにして横に伸び広がりますが、花期が近づくにつれ、高さ30~50㎝に立ち上がり、葉腋(ようえき)から細長い花軸を出した先に花を2個ずつつけます。花弁は5枚で、花径は10 ~ 15㎜ほどです。
花の色はピンクと白の2系統があり、西日本ではピンクが、東日本では白が多く見られます。ちょうど富士川付近を境に花の色が分かれますので、赤旗をシンボルとする平家と白旗をシンボルとする源氏が、1180年に富士川を挟んで争った富士川の戦いをもじって、「ゲンノショウコの源平合戦」と呼ばれることがあります。
葉は長い柄があり、対生。手の平形で、下部の葉は5つに深く裂けています。
花が咲き終わると、長さ2㎝ぐらいの細長い果実を鳥のくちばしのように立てます。果実は熟すと弾け、種子を飛ばします。5つに裂けて丸まった果実の形が神輿の屋根のように見えることから、ミコシグサ(神輿草)という別名も生じました。
ゼラニウムとは近縁種
ゲンノショウコの学名は「Geranium thunbergia」です。属名の 「Geranium(ゲラニウム) 」はギリシャ語の「geranos(鶴)」に由来し、長いくちばしのような果実を鶴のくちばしにたとえたものです。 種小名の thunbergii は、江戸時代に長崎のオランダ商館に滞在したスウェーデン人医師で、日本の植物を研究したカール・ツンベルクにちなみます。
ところで、この「ゲラニウム」という名前は、イタリアやスペインなど南欧の街角を飾る赤い花のゼラニウムと同じです。
実は植物分類学の祖と言われるリンネは、当初、ゼラニウムをゲンノショウコと同じフウロソウ科フウロソウ属に分類していました。現在はフウロソウ科ベラルゴニウム属に分類し直されていますが、ゼラニウムという名前が植物名として今でも使われるのは、その名残です。いずれにしても、ゲンノショウコとゼラニウムは近縁の種だということです。ベラルゴニウムという属名はコウノトリに由来し、やはり果実の形がコウノトリのくちばしを思わせるためにつきました。
俳句ではゲンノショウコは夏の季語。俳人・細見綾子(ほそみ・あやこ/1907~1997年)の句では、刈り取ってきた山野草の花の中にゲンノショウコも含まれていたのか、あるいは野原にゲンノショウコの花を見つけたのでしょうか。いずれにせよゲンノショウコの花に出合えた喜びがしみじみと詠われています。
ゲンノショウコは文字数が多過ぎるせいか、あまり俳句には詠まれていませんが、放浪の俳人・種田山頭火の「げんのしようこの おのれひそかな 花と咲く」も心に残る句です。細見綾子は兵庫県、山頭火も山口県の出身ですので、作品に詠まれたゲンノショウコの花は、可憐なピンク色をしていたのかと思われます。
花言葉は「心の強さ」
ゲンノショウコは近年、やや生育数が減りつつあるのではと心配されています。代わって増えているのが、北米原産の近縁種のアメリカフウロです。花は5弁花で、花色は薄紫か白。花径は5㎜と小さめです。花言葉は「誰か私に気づいて」。ゲンノショウコの花言葉は「心の強さ」。薬効が強く、名高い薬草にふさわしく、堂々としています。
ゲンノショウコ(現の証拠)
フウロソウ科フウロソウ属の多年草。 日本全土と中国、朝鮮半島、台湾に分布。 学名Geranium thunbergii 強い整腸作用があり、日本の三大民間薬に数えられる。花期は7~10月。花径は15㎜。花色は白またはピンク。
森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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