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青菜漬け

旬のもの 2024.01.13

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漬物男子田中友規です。

先日、うっかり白菜を腐らせてしまった。
いつもはベランダの日陰に置いておけばしばらく保つのだが今年は暖冬。
早めに塩漬けにしておけば・・・と後悔しつつ、改めて発酵の不思議に驚く。

冷蔵庫には塩漬けにした野菜がたくさん眠っているが
一向に腐る様子はなく、乳酸菌の世代交代を繰り返し、
徐々に酸味と旨味が増して古漬けとしてどんどん美味しくなるのだ。
昔の人の知恵はすごい。 

特に収穫後、萎れやすい青菜なんかは塩を振って漬けておくと、
ぐっと緑の発色が良くなり、あっという間に浅漬けとなる。

写真提供:田中友規

浅漬けはその名の通り、乳酸発酵が進んでいない状態なので
早めに食べないといけないのだが、塩分濃度を高くしておくと
野菜内部の水分が浸透圧の差で塩と入れ替わり、腐敗菌が減少。

高濃度の塩の中でも活動ができる乳酸菌だけが繁栄する、というのが発酵の仕組みだ。
だから塩漬けしておけば怖いものなし。どんとこい暖冬。

ところで日本三大菜漬けをご存知だろうか。

長野県の野沢菜漬け、熊本県の高菜漬け、そして広島県の広島菜漬け。

野沢菜といえば、年間出荷量5万トンと圧倒的な出荷量を誇る漬物で
ついで豚骨ラーメンにかかせない高菜は約2万トン、広島菜は900トンだそう。

どれも冬に旬を迎える青菜が美味しいのには理由があって、
凍結から身を守るため糖度をあげることにとよって甘くなり、さらに
また冬の乾燥した気候が水分を減少させ、風味が濃縮され、より味わい深くなる。
この美味しい状態で漬物にするのだから、うまい漬物になるに決まっている。

しかし、こういった青菜の漬物作りは、重労働のわりに単価が安く
別の野菜農家に転向してしまい、特に高菜漬けは近いうち国産のものは
食べられなくなってしまうかもしれない。

残念なことだが、農家も生活がかかっているのだからこの流れは止められない。
無責任に「やめないで!」などと言える立場ではないし、
日々当たり前に食べている漬物も、産地では様々な苦労や事情を抱えているのだ。

もうひとつ、青菜について調べていると面白い漬物に出合った。
山形青菜漬けという、農水省のサイトに紹介されている郷土料理で
「あおな」ではなく「せいさい」と読む。

元の菜を見ると、野沢菜や高菜と良く似ているが背丈は70cm以上で一株500g超と巨大。
山形青菜も、生産に手間がかかり中腰で1日中間引きをおこなったり、
パキッと折れやすい葉を丁寧に扱ったりする必要がある、など重労働。
消費は山形県内が中心のため、生産量も多くはない。

この「せいさい漬け」を知り、現地で作り、現地で消費するという小さな経済を見た気がする。
わざわざ県を超えて、排気ガスとともに大量に出荷する必要があるのだろうか?

SDGsだなんだと言っているが、漬物は食品ロスを減らす技術。
私たちができることは、漬物を買うことよりも、
地産地消を当たり前に生活に取り戻すことなんじゃないだろうか。

日本のすべてのキッチンで、
近くで取れた新鮮な野菜を、塩漬けし、発酵させ、消費する。
ただそれだけで、もしかしたら。

腐らせてしまった白菜の変色したところを切り落とし、
まだ食べられる部分を今日、塩漬けにした。

自分でお金を出して買った野菜だから、漬けるのも捨てるのも自由だ。
みなさんなら、どうしますか?

写真提供:田中友規
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田中友規

料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。

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