こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
初日の出に初詣、お正月には初がつくものがたくさんありますね。では、「初見鳥」はご存知でしょうか。これは読んで字ごとく、その年の最初に見た鳥のこと。え! そんな言葉は知らないって? それもそのはず、私が勝手につくった言葉だから。元日の朝、最初に目に飛び込んできた鳥を初見鳥と呼び、見た鳥によって、その年の鳥運(珍しい鳥に出会う運)を占う様な気がして、毎年大注目しているのです。
ちなみに一昨年は、なんとハヤブサが初見鳥だったので、最高に良いスタートが切れたと喜んだのですが、まあ、そんなことは1回しかなく、たいていは今回紹介するヒヨドリかハシブトガラスであることがほとんどです。
さて、そのヒヨドリ。大きさは28cmほどで、全身灰色の地味な姿の鳥です。日本全国、とにかく木さえ生えていれば、山から都会まで、どこにでもいる典型的な普通種と言えるでしょう。ヒヨドリという名前は、「ヒーヨ、ヒーヨ」と聞こえる鳴き声が由来といわれています。
大きな声でしょっちゅう鳴いていて、ときにはヒステリックに聞こえるので、うるさい鳥として、また、食べものを独占したり他の鳥を追い出したりするなど、お行儀があまりよろしくないせいか、人気が今ひとつという感じもします。でも、ボサボサの頭やチャームポイントである赤茶色のホッペがなかなか可愛らしい鳥だなと私は思うのですがどうでしょう?
とにかく、どこにでもいる鳥なので、バードウォッチャーには「なんだ、ヒヨドリか」とよく言われます。ところが、これは日本だけの話。世界的には分布域が狭く、繁殖地に限ると日本と朝鮮半島の一部にしかいない鳥なんです。ですから、海外のバードウォッチャーにとっては、日本に来たらぜひとも見たい鳥の一つなんだそうです。ところ変わればといったところでしょうか。
また、ヒヨドリは、日本の自然にとって、重要な役割を担っている鳥でもあります。それは種まきです。鳥の役割といえば、毎度おなじみの種子散布ですが、特にヒヨドリの活躍は他の鳥を圧倒しています。なにしろ、あまり好き嫌いせずに、いろいろな果実を食べ、また日本全国にたくさんいる鳥ですから、その貢献度は計り知れません。日本の森林にある樹木の約7割は、鳥によって種まきをしてもらっているそうですが、おそらくその貢献度はヒヨドリが一番でしょう。日本の森は、ヒヨドリによって作られていると言ってもいいかもしれませんね。
そんなヒヨドリの種まきは、実際にどんな感じなんだろうと思い、実験したことがあります。ヒヨドリが糞をする場所に植木鉢を置いて、どんな植物が生えてくるかみてみました。実験を開始したのが2月で、5月には待望の芽が出てきました。芽生えたのはヘクソカズラやトウネズミモチ、センダンでした。
確かにヒヨドリは、こうやって森を作る仕事をちゃんとやっているんだなと実感した瞬間です。それにしても驚いたのは、その発芽率です。おそらく、ほとんどの種が芽吹いたのではないのでしょうか。また、こういうガーデニングもおもしろいなとも思いました。名づけてヒヨドリガーデニングです。
さて、普通種のヒヨドリですが、じつは昔から普通の鳥だったわけではありません。平地で年中見られるようになったのは60年くらい前からなんです。古い図鑑を読むと、「平地には秋に現れ、春になるといなくなる」と書いてあります。東京で、夏にヒヨドリが観察されたのは1959年7月の大田区が最初で、1969年頃から夏でも普通に見るようになり、繁殖をするようになったという記録があります。興味深いことに、この傾向は全国的で、名古屋では1960年代に平地で繁殖をはじめ、大阪では70年代に市街地で繁殖を開始したことがわかっています。
じつはヒヨドリは、渡り鳥でもあり、春と秋には大きな群れを作って繁殖地と越冬地を行ったり来たりしています。関東の平地では、詳しく観察すると夏は少なく、秋になるといきなり数が増えるのですが、これは北海道や東北で夏を過ごした鳥たちが南下してきて立ち寄ったからなのです。
このまま居残って越冬する鳥もいれば、もっと南へ移動する鳥もいて、そんなヒヨドリの中に渡りをしなくなった鳥が、ちょうど60年くらい前に現れたのではないかと私は想像しています。しかし、まだ、はっきりとしたことはわかっていません。こんなに身近な鳥なのに、じつはまだまだナゾだらけ。ヒヨドリとはそんな鳥でもあるのです。
写真提供:柴田佳秀
柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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