こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
みなさんは、フクロウは好きですか? 丸い頭に2つ並んだつぶらな瞳の平たい顔は、鳥というよりも人間みたいで、なんともいえない魅力があります。そんなフクロウを1度は野外で見てみたいものですが、夜行性なのでなかなかそのチャンスがありません。ところが、今回とりあげるコミミズクは、フクロウ類では珍しく昼間から行動する習性があり、比較的出会うチャンスが多い種類なのです。
コミミズクは、全長38cmの中型のフクロウで、黄色い目が印象的な鳥です。フクロウなのに渡り鳥で、夏は北極に近いシベリアなどで子育てをし、秋になると日本各地に飛んできて越冬します。ですから、ちょうど今頃は、コミミズクを見るのに一番良い時期で旬なのです。
ところでフクロウとミミズクって、どこが違うのってよく聞かれます。その答えは、頭に耳のような飾り羽、正しくは羽角(うかく)と呼びますが、それがあるかないかの違いです。羽角があるのがミミズクで、ないものをフクロウと呼んでいるのですが、どちらも生物学的にはフクロウの仲間で違いはありません。
また、例外もあって、シマフクロウには羽角があるのに、フクロウという名前です。では、コミミズクはどうかというと、ミミズクだから羽角があるということになります。しかし、写真を見てもそれらしいものが見えません。これも例外なのかなと思うのですが、じつはよく見ると、申しわけ程度の小さな小さな羽角があるんです。その羽角が小さいことが名前の由来で、漢字では小耳木菟と書きます。ちなみにこの羽角は、耳ではありませんから音は聞こえません。昼間、じっとしているときにタカなどの天敵に見つからないように、姿を藪に溶け込ませる役割、すなわちカモフラージュの働きがあると考えられています。
コミミズクの主な食べものはネズミで、特にハタネズミという種類をよく狙います。このネズミは、ハタネズミという名前からわかるように、畑などの農耕地や河川敷、ヨシ原などの草原が生息地で、コミミズクがあらわれるのも当然、このような環境なのです。
午後3時頃、河川敷を見渡せる土手の上で出没を待っていると、どこからともなく飛びながらネズミを探しているコミミズクがあらわれます。ハタネズミは基本的に夜行性なのですが、意外と昼間でも巣穴から出てくることがあり、それを狙って明るい時間でも狩りをすることがあるのです。
しかし、明るい時間は同じ獲物を狙う、ノスリやチョウゲンボウなどのライバルもいるので、やはりメインの活動時間は彼らがいなくなる夜になります。暗闇でもネズミをとることができるのは、フクロウ類特有のあの平たい顔のお陰です。お皿のような形をした顔は、パラボラアンテナと同じような働きがあり、音を耳に集めることができます。飛びながら、ネズミがたてるわずかな音を聞きつけ、急降下して捕獲する。そんな狩りがコミミズクのやり方なのです。
コミミズクは、ネズミさえいれば意外と街の近くの河川敷にもあらわれます。昨年は、駅から歩いて行ける河川敷に何羽も定着したので、その姿をひと目みようとたくさんの人がコミミズク見物に訪れました。私も何回か見に行きましたが、土手の上にはカメラを構えた人人人。ピーク時には、おそらく500人、いやもっといたかもしれません。早い人では午後1時くらいからスタンバっていて、コミミズクが出てくるのを今か今かと待っています。
「はて、この光景、以前どこかで見たことがあるな」と思い、考えを巡らせて気がつきました。そうです、「出待ちです」。アイドル歌手やスポーツ選手などに会うために、放送局や空港などで待機することを通称「出待ち」というのですが、私は以前、放送局で仕事をしていて、よく玄関でアイドル歌手が出てくるのを待っているファンの人たちに遭遇しました。今見ている光景はまさに同じなのです。
集まるファンの数は、人気と比例する傾向がありますが、500人規模で集まるのはかなりの人気者です。それだけファンを集める力を持つコミミズクの人気ぶりは、一流のアイドル以上なのではないかと、そんなことを考えながらコミミズクを待っていました。じつは私もその出待ちをする一人なのですが。イヤハヤ、フクロウ人気恐るべしですね。でも、やっぱりこのルックスのコミミズクならば、だれもが見たいと思うのは仕方ないかもしれません。
柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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