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ルピナス

旬のもの 2024.05.12

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こんにちは。俳人の森乃おとです。
初夏を迎え、陽光きらめき薫風吹き渡る中で、ひときわ華やかに季節を彩ってくれるのがルピナスの花です。甘い香りを漂わせ、長い花穂を天に向かって垂直に伸ばし、赤や青、白、黄と色鮮やかに咲き誇る姿には圧倒されます。

『千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)』にも登場

ルピナスはマメ科ルピナス属の一~三年草および一部低木の総称です。
原産地は地中海沿岸と南北アメリカ。世界に300種ほどが分布します。地中海沿岸では、食料・薬用や家畜の飼料として数千年前から栽培されてきたといわれます。
中世イスラム世界の説話集『千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)』にも、ルピナスの豆の粉からつくられた石鹸が登場します。

草丈は20~150㎝。矮性種から高性種までバラエティーに富み、花期は4月後半から7月。根元から直立した花茎を、多くの蝶形の5弁花が取り巻きます。
花期が終わると、長さ6~15㎝の莢(さや)をつけ、熟すと茶色に変わります。一つの莢には1.5㎝×5㎜ほどの豆が3~6個入っています。

ルピナスの豆の塩ゆでは、スペインなど地中海沿岸の国では、今でも定番のビールのつまみ。ただし、ルピナスの多くの種はアルカロイドを含み、毒性があるため、食用として安全なのは、16世紀にイギリスで開発された白花種か、原種に近い黄花種だけだとされています。

和名は「葉団扇豆(はうちわまめ)」、別名は「昇り藤(のぼりふじ)」

日本には明治時代に緑肥、飼料として渡来しました。和名は「葉団扇豆(はうちわまめ)」。根元から出る葉は掌状複葉で、1枚の円い葉が深く切れ込み、5~10枚の小葉になっています。その形が、天狗が持つヤツデの葉の団扇(うちわ)を思わせるためです。

また、小花が咲き上がる総状花序の形が、まるでフジ(藤)の花を逆さまにして立てたようなので、「昇藤(のぼりふじ)」という別名もあります。

観賞の対象となったのはごく最近で、19世紀以降、欧米で品種改良が劇的に進んでから。
英国王ジョージ5世の戴冠式が行われた1911年には、園芸家のジョージ・ラッセルが、長大な花茎を持つ「ラッセル・ルピナス」を発表し、以降の代表種となりました。

ルピナスの花言葉は「想像力」「いつも幸せ」「あなたは私の安らぎ」「貪欲」

ルピナスは薬草や食用としての歴史が長く、ヨーロッパではルピナス豆を食べると想像力があふれ、気持ちが高揚すると信じられていました。紀元前4世紀に活躍した古代ギリシャの画家プロトゲヌスは、作品のアイデアを得るためにルピナスの種子と水だけを摂取していたとのだとか。また、夫婦二人でルピナス豆を食すると、お互いの愛情がより深く育まれるともいわれ、欧米では現在でも夫婦でルピナスをつまむ習慣が残っています。

「想像力」「いつも幸せ」「あなたは私の安らぎ」といった、いかにもポジティブで優しい花言葉はそうした言い伝えから生まれました。

現代俳人の秋山澄子氏には「ルピナスの 白を好みて 癒えにけり」という句があります。白いルピナスの花言葉は「母性愛」。薬草や牧草として利用され、誰かを癒し大地の栄養になる姿が、母なるものの包み込むような大きな愛を思わせるのでしょう。

「怪盗」アルセーヌ・ルパンとルピナスの花

さて、ルピナスには「貪欲」という少しただならぬ響きの花言葉があります。
ルピナスは強い吸肥力を持ち、どんなに痩せて荒れ果てた土壌からも、肥料や水などをどんどん吸い上げ、勢いよく花を咲かせつづけます。

その姿が貪欲なオオカミを連想させるのでしょうか。ルピナス(Lupinus)という属名は、ラテン語でオオカミを意味する「lupus(ルプス)」に由来するという説があります。
一方で、ギリシャ語の「ルペー(悲嘆)」が由来との説も。ルピナス豆はあまりに苦いので、噛んだ人は顔をゆがめて涙を流すからだそうです。

ところで、ルピナスのフランス名「Lupin(リュパン)」は、フランスの小説家モーリス・ルブラン(1864-1941年)が発表した推理小説・冒険小説の主人公「アルセーヌ・ルパン(リュパン)」と発音も綴りも全く同じ。
ルパンシリーズの終盤では、引退したルパンが自邸の庭いっぱいにルピナスの花を育てている挿絵が描かれています。

貪欲な大泥棒であり、心優しい義賊でもあるルパンにとって、自分の名を持つルピナスの花穂は、自由を愛し孤高に生きるオオカミの、高く掲げられた誇り高き尾=魂そのものであったのかもしれません。

ルピナス

学名 Lupinus
英名 Lupin ※仏名も同じ
マメ科ルピナス属の1~3年草と低木の総称。地中海沿岸地方、南北アメリカが原産。花茎が直立し、5弁の蝶形花が長い総状花序をつくる。葉は根出葉で,掌状複葉となる。花期は5~7月。観賞用のほか、食用、飼料として栽培される。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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