こんにちは。俳人の森乃おとです。
4月のあたたかい日差しの中、道端や空き地で雑草たちがとりどりに花を咲かせています。タンポポの黄、ハコベの白、オオイヌノフグリの青などに交じって、カラスノエンドウの蝶の形をした赤紫の花がひときわ目立っています。蔓を伸ばして絡み合い、柔らかい枝葉を広げ、春の喜びを伝えてくれます。

シルクロードを経て中国から渡来
カラスノエンドウは、マメ科ソラマメ属の越年草。原産地は地中海東部沿岸地方で、古代オリエントでは小麦と一緒に栽培されていたそうです。全草が食べられる上、マメ科植物の根にはバクテリアが共生し、窒素栄養分を固定して、土壌を改良してくれるためです。それがいつしか栽培作物でなくなり、雑草に戻っていったと考えられています。
学名「Vicia sativa(ビシア サティバ)」のViciaは「巻き付く」、sativaは「栽培された」の意味です。
一方、エンドウ(マメ科エンドウ属)もこの地域で生まれ、栽培作物として定着。漢の時代、「大宛(だいえん)」と呼ばれていたシルクロードのオアシス国家フェルガナ(現在のウズベキスタン)を経て、中国に渡来したため、豌豆(大宛国の豆の意)と呼ばれました。

カラスノエンドウはエンドウに姿形が似ているため、中国では「野豌豆」と呼ばれます。現在では北半球に広く分布しており、日本にも古代に中国を経て渡来し、全国に広がったと考えられています。そのため、カラスノエンドウの漢字表記は「烏の豌豆」でなく、「烏野豌豆」となります。
近縁種には「スズメノエンドウ」「カスマグサ」
カラスノエンドウという名前は広く定着していますが、植物学上の標準和名はヤハズエンドウ(矢筈豌豆)に統一されています。
葉は4~8対の小葉に分かれ、それぞれの小葉は長さ2~3㎝ほどの長楕円形。先が三角形に浅くへこんでいます。その形が「矢筈(やはず)」(矢を弓につがえるための凹状のくぼみ)に似ていることから名づけられました。

同じソラマメ属の近縁種には、スズメノエンドウ(雀野豌豆)とカスマグサ(かす間草)があります。
この3種の特徴を簡単に言うと、カラスが大きく、スズメは小さく、カスマはその中間の大きさということ。カスマグサは、「カラス(か)とスズメ(す)の間(ま)」ということで、名づけられました。言葉遊びのようで面白いですね。


花の色にも違いがあり、カラスは艶やかな紅紫色、スズメは薄紫、カスマは淡青紫に見えます。花期はおおよそ3~6月。さやの中にできる豆の数は、カラスノエンドウが5~10個、カスマグサが3~6個、スズメノエンドウが2個です。また、カラスノエンドウのさやは熟すと真っ黒に変化します。だから「カラス」と呼ばれたという説もあります。

花の外にある「花外蜜腺」
カラスノエンドウには、それぞれの葉の付け根に托葉(たくよう)と呼ばれる小さな三角形の突起があり、そこに暗赤色の点がついています。なめてみると薄甘く、これが蜜腺であることがわかります。花の外にあるので「花外蜜腺」(かがいみつせん)と呼ばれます。
花外蜜腺があるのはカラスノエンドウだけで、スズメノエンドウやカスマグサにはありません。蜜を求めて集まるアリに、食害をもたらす昆虫を退治してもらうために生まれた器官だと考えられています。
またカラスノエンドウは柔らかく、全草が食べることができます。生食でも湯がいても、炒めてもよし。刻んで乾燥させればお茶にもなります。

花言葉は「小さな恋人たち」「喜びの訪れ」「未来の幸せ」
カラスノエンドウの花言葉は、まず「小さな恋人たち」。一対の可憐な花が並んで咲く様子から生まれました。
俳人・川島彷徨子(かわしま・ほうこうし、1943-1994)の句には、子どもたちがカラスノエンドウの咲く野原に集まってくる情景が描かれています。

ところでみなさんは豆笛をつくって遊んだことはおありでしょうか?
さやの端をちぎり、豆を取り除きます。空になったさやを再び合わせ、一端をくわえて空気を吹き込むと、「シービービー」「ピーピー」という大きい音が響きます。少しコツが要りますが、昔の子どもたちは誰でも吹けたそうです。そのため別名は「シービービー」「ピーピー豆」。令和の現在、この遊びは保育園などを通じて復活しているのだとか。

いつの時代も、カラスノエンドウのある光射す草地は、子どもたちの喜びと未来の幸せを約束してくれるのです。
カラスノエンドウ(烏野豌豆)
標準和名はヤハズエンドウ(矢筈豌豆)
学名Vicia sativa
英名Narrow-leaved Vetch
マメ科ソラマメ属の越年草で、地中海沿岸地方原産。北半球に広く分布。日本には中国を経て古代に渡来。花、葉、茎、豆の全草が食用に。葉の先端が3本のつるに分かれ、絡みつく。全長60~150㎝。花期は3~6月。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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