こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「鱧(はも)」についてのお話です。
「京都の夏」といえば、京都三大祭の一つである「祇園祭」である。その祇園祭と関係が深い食材が「鱧」だ。
鱧は、梅雨明けの頃が最も美味しい時期と言われている。ちょうど祇園祭の開催と重なるため、別名「鱧祭」ともいわれることもあるそうだ。
開催期間中、京都ではたくさんの料理屋で鱧料理が食べられる。祭りの山鉾の近くにある料理屋が店先に出店を構え、鱧寿司などが気軽に買えることもある。
京都に来た当初、学生の私は鱧を知らなかったので、初めて「鱧寿司」のお品書きを見た時は読めなかったのだが、今では鱧の字を見かけると「ああ、京都の夏が来たなあ」と思うくらいには京都歴が長くなった。
鱧は京料理に欠かせない高級魚として扱われている。生命力が強く、冷凍技術がなかった時代でも、海から遠い京都まで生きて運ぶことができ、鮮度を保つことができたという。
鱧は鋭い歯を持ち凶暴だが、外見からは想像出来ないほど綺麗な白身を持つ。身は脂ものっていて、淡白な旨味の中に濃厚な味わいを感じられる。
鱧料理の定番は、梅肉をつけて食べる鱧の落とし(湯引き)や鱧の天ぷら、そして鱧寿司などが有名だ。
ダレるような夏の暑さの京都では、爽やかながらも精の付く鱧は欠かせないのだ。
鱧には細かい小骨が沢山あり簡単には抜けない。骨を断ち切らなければ食べられないため、皮ギリギリまで深く庖丁を入れる「骨切り」が必要となる。
皮と身の間スレスレの所で包丁を止め、一寸(約3㎝)の間に20〜30切れもの包丁を細かく入れる必要があるそうだ。骨切りの技術が京都で広まり、技が磨かれて鱧料理は京都名物となったとも言われている。
今では骨切り機の登場によって、夏が来るとスーパーでも気軽に鱧が手に入ることができるようになったが、やはり職人によって細やかに骨切りされた鱧料理を食べるのは格別だ。京都の人には、夏が来たら「ここの鱧食べな、夏が始まらん」と思うようなお気に入りのお店やメニューがある人もいると思う。
根っからの京都人ではない私にも、実はお気に入りの鱧料理がある。京都の中央卸売市場のすぐそばに、料理人も買い付けに来る鮮魚店がある。その魚屋が構える魚が主役の惣菜屋があるのだが、夏と冬の2回の鱧の旬に「鱧かつ」が登場する。それを使った「鱧かつサンド」がとっても美味しいのだ。
肉厚な鱧かつを、スライスした柔らかいパンでサンドしている。タルタルソースとピリ辛なトマトソースで満足感のある味付けにしているものの、鱧の淡白で繊細な味付けを邪魔しない絶妙な具合がニクイ。
鱧の季節が来ると、私はこの鱧かつサンドが無性に食べたくなる。同時に、そろそろ祇園祭の季節が来るなあと、京都の夏をじんわり感じるのだ。
鱧食べな、京都の夏は始まらん。
「私の夏は、鱧カツサンド」と、ちょっぴりジャンキー。はんなり京都人には、まだまだなりきれないのである。
庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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