漬物男子、田中友規です。
今日は夏のきゅうりのお話。
京都では、八坂神社のご神紋「五瓜に唐花」ときゅうりの断面がよく似ているため、
祇園祭が行われる期間はきゅうりを食べない、というのは有名な話です。
しかし、10年ほど京都に居りますが、実際にきゅうり断ちをしている人にお会いしたことがありません。
どうやら神事に携わる氏子の方々に伝わる風習で、広く一般的なことではないようです。
だって夏のきゅうりは濃緑に輝き、瑞々しく、浅漬けにしても、酢の物にしても、
その清涼感が夏には一層磨きがかかるように思えて、僕にはとても我慢できません。
特に夏場は身体がきゅうりを欲するのは、もはや人間の生理なのでは、とまで思うほどです。
農家では、夏場は成長が早すぎて1日3回収穫しないと追いつかないというくらいですから
新鮮なものが安く手に入りやすく、ねっとりと汗ばむ京都の夏の水分補給にもぴったりです。
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実は、きゅうり断ちをするもうひとつの理由として、
夏場の火事に備えて水を使いすぎないようにきゅうりの生産量を抑えていた、という話もあるようです。
なにしろ1日に3回も4回も水を与えないといけないきゅうり栽培には大量の水が必要で、
いざという時に貯めていた水がなかったら大変なことになります。
きゅうり断ちの本当の理由は、人々の町を守る知恵だったのかもしれないですね。
きゅうりにまつわる風習でもうひとつ。
これまた聞きなれない「きゅうり封じ」という儀式があることを知りました。
西陣で生まれ育った京都人の妻も知らないというし、いったいどんなものなのか興味津々。
さっそくその神事が行われている西加茂にある神光院(じんこういん)さんへ伺い、住職にお話を伺うことにしました。
きゅうり封じは厄除けの一種で、土用の丑の日に参拝者は祈祷されたきゅうりをもらい受け、身体の悪い部分にすりつけた後、病気や災難をきゅうりに封じ込めて自宅の土に埋める。そして地中で腐らせることで病気とともに自然へ還そうという儀式だそうです。
自宅に埋める土がない場合は、境内の「きうり塚」へ納めることもできます。
毎年2000人以上の参拝者がきゅうり封じにくるそうで、地元の人たちの心の安寧を得る行事として長く親まれているようでした。
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ぼくも参拝したかったのですが、コロナウイルスの影響で残念ながら今年は中止だそう。
きっと住職が世界中の人々の代わりにきゅうり封じを行ってくれると思います。
それにしても「きゅうり断ち」「きゅうり封じ」と、食さない形できゅうりと関わる風習が2つもあるなんて
どうにも不思議な野菜です。なにしろ他の野菜においてそんな風習は見当たりません。
もしきゅうり断ちをしている人がお読みになっていたら申し訳ありませんが、ここでぼくが最も美味しいと思うきゅうりの食べ方をご紹介します。
山形県の郷土料理「だし」という漬物で、夏野菜を細かく細かく刻み、昆布で粘りを加えた白いご飯の最高のお供です。
- きゅうり
- 茄子
- 茗荷
- 紫蘇(※お好みで生姜、青唐辛子を加えます)
- 塩
- 粘りの出る昆布(がごめ昆布など)
- 出汁醤油
すべて5mm角に刻んで漬け込むだけ。
野菜の水分によって昆布から染み出した粘り成分のフコイダンやアルギン酸がビタミン豊富な夏野菜を抱きしめて、もはや喉越しを味わう飲み物なんじゃないかと思うほどスルリと茶碗が空になっていくのです。
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山間部の郷土料理で、ルーツや由来など文献がひとつも残っておらず100家庭あれば、100種類の味があると言われる「だし」ですが、新鮮なきゅうりだけは欠かすことはできません。
夏の太陽を浴びた後、よく冷やした「だし」を熱々ご飯に乗せて無性に食べたくなるのは、
きっと昔から人の体が求めている味だから。
祇園祭の最中に食べたくなったらどうするかって?
答えはあなたの身体に聞いてみてください!
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田中友規
料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。
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