こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。
曼珠沙華(まんじゅしゃげ)――別名、彼岸花(ひがんばな)。
中国原産の花ですが、秋のお彼岸の時期に広く日本の里山に群生している姿を見ることができ、日本人にとっても大変身近な秋の花のひとつです。
「曼珠沙華」という名前は、サンスクリット語で「赤い花」また「天界に咲く花」といった意味を持っています。
仏教の経典には、おめでたい事が起こる兆しやそのお祝いに、天から降る赤い花、という記述があるのだとか。
たしかに、花の姿を見てみるとどこか軽やかで、ふんわり華やかな妖精のような見た目をしているようにも思えます。

一般的なのは鮮やかな赤色ですが、白色の花もあり、見た目がよく似た彼岸花の仲間である「リコリス」という花には黄色や桃色なども存在しています。
それでも、やはり私たちが曼珠沙華を思い浮かべるときには、真っ赤な花が群生して咲く姿が多いのではないでしょうか。
日本人にとってその光景は、どこか浮世離れした異世界のような雰囲気を感じさせることも少なくありません。
彼岸花という名前も、お彼岸の時期に咲くという由来はもちろんのこと、球根などに毒を持つ特徴から「食べると死んでしまう(彼岸しかない)花」という意味からきているとも言われています。
しかし、曼珠沙華の毒は水にさらして抜くことができ、でんぷんも多く含んでいるため、かつては飢饉をしのぐための植物として植えられていたとも言われています。

また、その成長の仕方も普通の植物とは真逆。
冬に葉を茂らせて春には盛んに光合成を行い、夏に一度枯れてしまったかと思うと、秋に急成長を遂げて一気に花を咲かせます。
ちょっと変わった、独自の世界観を持った植物といった印象ですよね。
実はこの曼珠沙華、全国各地で広がっているだけに「彼岸花」以外にもさまざまな別名があるのをご存知でしょうか。
中には「地獄花」や「死人花」「幽霊花」といった異名や、毒性の面から「毒花」「痺れ花」と呼ばれることもあるのだとか。
また、毒が害獣予防になるために田畑の周辺はもちろん、お寺・お墓などに植えられることも多く、ちょっとおどろおどろしい「葬式花」「墓花」といった呼び名も。
他にも、その見た目から「灯籠花」「天蓋花」「狐の松明」「剃刀花」といった名前もあります。

ともあれ、呼び名の多さはそれだけ人々の暮らしの中で身近に、印象強く想われ大切にされてきたことの裏返しとも言えるのではないでしょうか。
色や姿形も含めてどことなく神秘的な死後の世界を思わせることから、この花を見て不吉だと考える人も少なからずいるようですが、私はこの花が咲き乱れている光景は、良い意味で「あの世との繋がり」を想わせてくれるような気がしてなりません。
現世を生きていると、私たちはついつい慌ただしい日々の中で、今は亡き人たちがいる「彼岸の世界」のことを忘れてしまいがちです。
「彼岸」とは、仏教の世界において「極楽浄土」のことを指し、この世の迷いや苦しみの元になる煩悩のない世界を言います。
私たちもきっと、向こうの世界から旅をしてきて、いつか向こうの世界へと帰っていくはず。
自分のところまで命を繋いできてくれたご先祖様たちも、今はもう会えない大切な人たちも、彼岸の世界で私たちを見守ってくれていることでしょう。
曼珠沙華の咲く季節であるお彼岸は、改めてそんな世界のことを思い出させてくれます。
皆様もこの花を見たときには、目には見えないけれど「この世」と隣り合わせに存在しているに違いない「あの世」について、そっと想いを馳せてみてはいかがでしょうか。

紺野うみ
巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。
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