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ツツドリ

旬のもの 2024.09.26

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

バードウォッチャーには、年間スケジュールみたいなものがあって、その季節ならではの楽しみがあります。例えば、9月下旬ならば、長野県の白樺峠や愛知県の伊良湖岬へタカの渡りを見に行ったり、近所の公園で、秋の渡り鳥を探したりするのが定番というところでしょうか。今回紹介するツツドリも、そんな近所で出会う秋の渡り鳥のひとつです。

ツツドリの成鳥

ツツドリは、大きさ32cmほどのカッコウの仲間の鳥。春に、越冬地の東南アジアから日本の山の森へ渡って来て繁殖をし、秋にはまた越冬地へ旅立っていきます。頭から体上面は青みがかった灰色で、胸から腹にかけて黒い横縞があります。そして、目の周りにある黄色いリングが特徴的です。パッと見には細身のハトのような感じでしょうか。また、全体的に赤茶色をした赤色型と呼ばれる個体がいたり、若い鳥は体のところどころに赤茶色が混ざったりする特徴があります。

幼鳥

ツツドリの他に日本で繁殖するカッコウの仲間は、カッコウとホトトギスがいますが、どれもが色や模様がそっくりで見分けが難しい事で知られています。しかし、鳴き声はまったくちがい、カッコウは「カッコー」、ホトトギスは「特許許可局」、そしてツツドリは「ポポッ、ポポッ」と連続した声を発します。

この「ポポッ、ポポッ」という鳴き声は、竹筒の穴を手の平でポンポン叩いたときの音と似ていて、それが名前の由来だとか。確かにそう聞こえるので、これに異存はありません。平安時代には、すでにツツドリと呼ばれていたそうで、時代が変わっても連想することは同じなんだなあと思います。また、ツツドリは、江戸時代にはいくつか異名が生まれ、“たねまきどり”や“なわしろどり”などとも呼ばれていたそうです。日本に渡って来て鳴きはじめるのが4月中旬からなので、山から聞こえるツツドリの声が農作業の合図になったのでしょうね。

さて、カッコウやホトトギスといえば、他の鳥に卵を托して子育てをしないことで有名ですが、ツツドリも後多分に漏れず子育てはせず、主にセンダイムシクイという小鳥に卵を托して育ててもらいます。センダイムシクイは、山の森で繁殖する鳥なので、ツツドリもそれに合わせて山にいるのですが、そのときのツツドリを見るのはかなり大変。鳴き声は聞こえても、なかなか姿を見せてくれないのです。

タケノホソクロバを食べる幼鳥

ちなみに、北海道の一部の地域に棲むツツドリは、ウグイスにも卵を托します。センダイムシクイに托すツツドリは、センダイムシクイと同じ白い卵を産むのですが、ウグイスに托すツツドリは、ちゃんとウグイスの卵と同じ赤茶色の卵を産みます。ただし、同じ鳥が白い卵と赤い卵の両方を産み分けることはできません。

山では姿が見えなかったツツドリですが、秋の今頃は事情がちがいます。越冬地への旅の途中に、ある目的があって平地に姿をあらわすからです。その目的とは食べもの。ツツドリは毛虫が大好物で、なかでも秋はサクラの葉を食べるモンクロシャチホコというガの幼虫が大発生するので、それを狙っての平地の公園などにやってくるのです。山では、なかなか姿が見られないツツドリが、このときばかりは出会うことができるので、毎年、楽しみにしています。

また、カッコウやホトトギスも毛虫が大好物なので、ツツドリと同時に見られることがあり、それを見つけるのも、また楽しみなのです。でも、圧倒的にツツドリが多いのはどうしてなのか不思議です。ただ、秋は鳴きませんのでご注意ください。

サクラにとって、葉を食べられてしまうモンクロシャチホコはとてもやっかいな虫です。それを食べてくれるツツドリは願ってもない救世主。夢中になって毛虫をパクパク食べる姿は、なかなか頼もしく見えます。平地の森でたくさん食べて旅のエネルギーを十分に貯え、東南アジアの越冬地へ旅立って行きます。そして、また来年も日本に帰ってきてくれることを願い、旅の安全を祈りたいと思います。

写真提供:柴田佳秀

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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