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ダイモンジソウ

旬のもの 2024.09.27

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

お盆の終わりには、この世に迎えた精霊を再びあの世に送り出すための、送り火の行事が各地で行われます。8月16日に京都市左京区の如意ケ嶽で行われる「京都五山送り火」は有名です。山の斜面に積み上げられた薪の火が、夜空に大きな「大」の字を描くので、「大文字焼き」とも呼ばれます。花の形がこの大文字によく似ているというので、名前をつけられたのが「ダイモンジソウ」(大文字草)です。

5枚の花弁の組み合わせが「大」の字にそっくり

ダイモンジソウはユキノシタ科ユキノシタ属の多年草です。北海道から九州まで、山地の湿った岩場に自生。中国、朝鮮半島、サハリンにも分布します。
葉はすべて根元から出て、5~20㎝の長い柄を持ちます。葉身は円形で長さ3~15㎝、幅4~20㎝と大きく、縁が手の平状に粗く切れ込んでいることが特徴です。

花期は9~11月。5~40㎝の花茎を伸ばし、盛んに枝分かれして先端に集散花序をつくります。花は白い5弁花で、上向きの3つの花弁は長さ3~4mmの短い楕円形、下向きの2つの花弁は長さ4~15mmの線状楕円形。その組み合わせが「大」という漢字を形作ります。

スラリとした花弁は風車の羽を思わせ、独特な浮遊感を漂わせます。そのため観賞用の山野草としても人気があり、鉢花として出回っています。原種の花色の白に加え、赤やピンクなど多くの園芸品種も開発されています。

有名なプラントハンターの名前を学名に持つ

学名はSaxifraga fortunei (サクシフラガ・フォルチュネイ)。属名のSaxifragaはラテン語で「石を砕く」という意味の合成語。ダイモンジソウの仲間が尿道結石の治療に使われていたためです。

種小名のfortuneiは、19世紀イギリスの植物学者で有名プラントハンターでもあるロバート・フォーチューン(Robert Fortune)の名にちなみます。フォーチューンは、中国からインドへチャノキ(茶の木)を持ち出したことで知られる人物。江戸時代の終わりには来日し、花を愛する日本人の国民性と文化レベルの高さを著書『幕末日本探訪記―江戸と北京』にて賞賛しました。日本に多く自生するヤシ科のシュロ(棕櫚)の学名(Trachycarpus fortunei)にも、彼の名前がつけられています。

のびやかに こころのままに 居たい日の 想いのままの 大文字草――鳥海昭子(とりのうみ・あきこ/1929-2005)

ダイモンジソウの花言葉は「好意」のほか、「自由」「不調和」など。歌人・鳥海昭子は、自作について「ふるさと(山形県)の山の渓流沿いでよく見かけたかれんな白い花です」と記しています。 
束縛から解き放たれ、自由に想いのまま両腕を広げて「大の字」に寝転ぶことができるのは、やはり故郷だからなのでしょう。

大文字草と はつきり言へるほど――稲畑汀子(いなはた・ていこ/1931-2022)

花言葉の「不調和」は、5枚の花弁の長さが不揃いなことから生まれたとされます。けれど、花弁がみな同じ長さだったら「大文字」の形にはなりません。俳人の稲畑汀子は、「本当に大の字の形ができている」と、花を見つけて喜びます。そして「大文字草の 小さき 花の大」とも詠み、その大の字がとても小さいことまで愛おしみます。

「好意」という花言葉は、ダイモンジソウの英名「Rockfoil(ロックフォイル)」から。「foil」は「引き立て役」という意味で、岩場に生えるダイモンジソウが、岩に寄り添っているように見えるためです。

ところでダイモンジソウは、平地でよく見かける同属のユキノシタと同様、若葉が大変おいしいことで知られます。和え物や天ぷらにしてもよし。この秋は山に入り、この可憐でかつ美味な山野草と出合いたいと願っています。

ダイモンジソウ(大文字草)

学名:Saxifraga fortunei
英名:Rockfoil
ユキノシタ科ユキノシタ属の多年草。北海道から九州まで、山地の渓流沿いの岩場などに自生。中国、朝鮮半島、サハリンにも分布。花期は9~11月。花茎を伸ばし、先端は枝分かれして、白色の小さな5弁花の集散花序つくる。花弁は上弁3枚が短く、下弁2枚が長い。和名の由来は花の形が「大」の字に似ていることから。葉は柄が長く、円形で大きい。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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