謹んで新春のお慶びを申し上げます。俳人の森乃おとです。
1月のいよいよ研ぎ澄まされる寒さの中で、ボタンが大輪の艶やかな花を咲かせています。「百花の王」として称えられるボタン(牡丹)は、通常は春から初夏にかけて咲く花ですが、人工的な温度管理で促成栽培され、冬に咲くボタンを「フユボタン(冬牡丹)」と呼びます。春咲きのボタンより小ぶりではありますが、凛とした美しさがあり、いっそう魅力的です。
フユ(冬)ボタンとカン(寒)ボタン
フユボタンと同じように真冬に花をつける「カンボタン(寒牡丹)」と呼ばれる仲間もあります。これは春と秋の年2回花をつける2季咲き性の系統で、春に出た花芽を取り去り、さらに8月頃には葉も摘み取り、秋に出る花芽が冬に咲くように育てたものです。
冬ボタンも寒ボタンも植物学的には通常の春に咲くボタンと同一種と見なされ、学名も一緒です。
ボタンはボタン科ボタン属の落葉小低木で、中国西北部が原産。日本には奈良時代に薬用植物として渡来しました。平安時代には観賞用に愛好されている様子が、かの清少納言の『枕草子』にて描かれています。
ボタン、フユボタンとも学名はPaeonia suffruticosa(パエオニア・スフルティコサ)。属名のPaeoniaはギリシャ神話の医神の名。種小名の「suffruticosa 」は「亜低木状の」という意味です。カンボタンの学名は、それに「hiberniflora」という変種名が追加されます。「冬咲きの」という意味です。ちなみにフユボタンの栽培は、江戸時代に入って盛んになったそうです。
ハルボタンとフユボタン・カンボタンとの違い
春に咲くボタンは樹高1~2mですが、フユボタンとカンボタンはそれよりやや低め。花径も10~20cmと小さめです。花色は、赤、ピンク、朱など原種に近い赤系統のものが多く、色はハルボタンより薄いものが多いです。
フユボタンとカンボタンは互いによく似ていますが、最大の違いは、フユボタンには柔らかい緑色の葉がありますが、カンボタンは葉を摘み取られていること。細く黒い幹がむき出しになり、その先に花がついています。
冬の寒さや雪から守る「わらぼっち」
フユボタンとカンボタンは、神社・仏閣、植物園などで大事に手入れされながら育てられていることが多く、名所には東京・上野東照宮のぼたん苑や鎌倉・鶴岡八幡宮などがあり、多くの場合、フユボタン、カンボタン両者入り乱れて咲き誇っています。
この2種のボタンを冬の寒さや雪から守っているのは、「わらぼっち」と呼ばれる屋根型をした藁囲いです。この可愛らしい名前は、「藁帽子」がなまったという説が有力。フユボタンやカンボタンの一株一株が、「わらぼっち」の中に宝物のように収められた姿を目にすると、日本人の花に対する愛情の深さを感じさせます。
俳聖・松尾芭蕉(1644―1694)が「野ざらし紀行」の旅の途中の1684年、三重県桑名市にある真宗大谷派桑名別院本統寺の住職・琢慧(たくえ)上人に招かれて滞在した際に詠んだ句。芭蕉はここで琢慧上人が丹精込めて育てたカンボタンを観賞しました。
句意は「春の花であるはずのボタンを冬に見ていると浜から千鳥の鳴き声が聞こえた。それはまるで雪の中で夏鳥のホトトギス(カッコウ)の声を聞いたような気がした」。季節が交錯するような幻想的な感覚が見事です。
ところで、芭蕉が見せられたのはカンボタンのはずですが、句ではフユボタンとしています。フユボタンとカンボタンは厳密には違うものですが、俳句では区別していないことが多いようです。
フユボタンとカンボタンの花言葉は、ハルボタンと同じ「風格」「富貴」「恥じらい」です。
明治から昭和時代にかけて活躍した俳句界の巨人・高浜虚子は、冬に咲くボタンの優しい温かさを詠みます。
厳しい寒さの中でも花開くフユボタンは、その周辺だけに春が来たようです。麗らかな新しい季節への憧れと希望を込めて、皆さまの今年一年の多くの幸せと健康をお祈りいたします。
フユボタン(冬牡丹)
学名 Paeonia suffruticosa
英名 Tree peony
ボタン科ボタン属の落葉小低木で、中国西北部原産。日本には奈良時代に薬草として渡来。
フユボタンは、人工的温度調節により、ハルボタンを促成栽培したもの。よく似たカンボタンは2季性変種の春の花芽を摘み取り、夏に葉も摘んで、冬に咲くように育てたもの。
森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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