すっかり春らしくなり、お出かけするのも気持ちが良い季節になりましたね。
今回ご紹介するのは、春の訪れを感じさせてくれる旬の野菜「若牛蒡」です。
春を告げる野菜
大阪府八尾市の特産品として知られる若牛蒡は、毎年2月から3月ごろに収穫期を迎えます。旬の時期には地元の市場やスーパーの店頭に並べられ、春を告げる季節の野菜として地域の人々に愛されてきました。
ゴボウと名がついているものの、根っこの部分だけを食べる一般的なゴボウとは異なり、若牛蒡は、根から軸(葉柄)、葉まで、すべて食べられるのが特徴の独特な野菜です。
細い根は柔らかくてゴボウらしい豊かな香りがよく、軸の部分はフキにも似たシャキシャキの食感、葉にはほんのりと苦みがあり、山菜のような力強い味わいが魅力です。一つの野菜でいろいろな食感や味わいが楽しめるとあって、料理好きにはたまらない旬の味覚でもあります。
また、特に葉の部分には、ポリフェノールの一種であるルチンが含まれていることがわかり、栄養価の高さにも注目されています。
生産量が多くないからこそ、この季節にしか出回らない、貴重な野菜のひとつ。関西を中心に販売されていますが、一部は首都圏のデパートなどにも届けられ、珍しい野菜として知られています。
綿花の栽培から若牛蒡へ
地元の八尾は、江戸時代から明治のはじめにかけて、河内木綿の名産地として名を馳せ、綿花の栽培がさかんでした。しかし明治以降、海外から輸入された木綿におされて生産が衰退。
昭和以降は、若牛蒡の栽培が盛んになり、現在では全国で流通している若牛蒡の9割以上を生産するほどの一大産地になりました。特に八尾市南部は大和川に近いからか砂混じりの土壌だったため、若牛蒡の栽培に適しており、生産が広がったといわれています。今では、地域に根付いた特産品に成長しました。
家庭で愛される若牛蒡の味
地域の家庭では、さまざまな若牛蒡料理が親しまれています。
よく作られるのが若牛蒡の炒め煮。まず食べやすく切った根と軸の部分を10分ほど水にさらしてアク抜きします。それらをさっと炒めてから、油揚げを入れて、醤油やみりん、砂糖などの調味料で煮含めるシンプルな料理です。
若牛蒡の風味を残しつつ、柔らかく煮た味わいは、白いご飯によく合い、日々のおかずにピッタリ。
シャキシャキした歯ごたえを活かすなら、かき揚げもおすすめです。
食べやすく切ってアク抜きした根と軸の部分に薄く衣をつけてカラッと揚げれば、サクサクの食感と青々とした若牛蒡の風味がよく、春の空気を感じられる天ぷらに。
若牛蒡の魅力は、その瑞々しさと独特の食感や風味にあります。冬の寒さが和らぎ、暖かな日差しを感じる今こそ、おいしさがギュッと詰まった若牛蒡を食卓に取り入れて、一層春らしさを味わってみてはいかがでしょうか。

清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
