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お花見と桜餅

旬のもの 2025.03.24

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春に欠かせないレジャーといえば、まもなくシーズンを迎えるお花見ですね。

庶民の行楽として桜のお花見が広まったのは、江戸時代のこと。

『江戸名所図会』に描かれた隅田川沿いのお花見。手前には敷物や酒樽も見えます。(国立国会図書館デジタルコレクションより)

春を楽しむ江戸のお花見

現在も桜の名所として知られる東京の上野公園のあたりは、お花見が広まった江戸時代初期のころから有名で、多くの人々で賑わっていたといいます。

その後、江戸幕府の八代将軍徳川吉宗が、現在の東京都北区にある飛鳥山や品川区の御殿山、隅田川沿いなどに桜の木の植樹をすすめたため、各地に賑わいが生まれ、お花見は江戸の庶民が気軽に楽しめる行楽として広まっていきました。

江戸の人々は、重箱に詰めたお弁当やお酒を持ち寄って、桜の下で宴会を開くようになり、これが現代のお花見の形へとつながっていきました。

関東を中心に広まったのは、薄皮で餡を巻いた長命寺風の桜餅。

桜餅の東西

さて、お花見と深い関わりのある和菓子といえば、桜餅でしょう。

桜の葉で包んだ春らしさあふれる和菓子ですが、東西でふたつの異なるスタイルがあることが知られています。

関東を中心に広まったのが、長命寺風の桜餅です。

そもそもの始まりは、隅田川沿いの桜の名所だった向島にある長命寺という寺院。

川沿いを歩く2人の女性が提げているのは桜餅が入った竹籠。(『江戸自慢三十六興』国立国会図書館デジタルコレクションより)

長命寺の門番が、大量にある桜の葉をうまく利用できないかと考え、桜葉で包んだ菓子を考案。享保年間(1716-36)のころには長命寺の門前で売り始め、文化文政期(1804-30)には大流行し、お店はたいそう繁盛したそうです。

薄いクレープ状に焼いた生地で餡を巻き、塩漬けの桜葉で包んだ香り高い桜餅は、長命寺の桜餅として江戸で評判になり、他の多くのお店でも真似をして売り出すようになりました。

関西では、つぶつぶの質感が趣深い道明寺生地の桜餅が広まった。

桜餅が江戸で人気となり、他の地域にも広まったと考えられていますが、関西を中心に広まったのは、道明寺粉を使った桜餅でした。

道明寺粉とは、蒸したもち米を乾燥させて粗く砕いたもので、和菓子の材料のひとつ。

大阪の道明寺(現在の大阪府藤井寺市)という寺院で作られてきた「道明寺糒」に由来するため、そう呼ばれます。道明寺の糒は、1000年以上の歴史があり、古くは保存食として食べられていたそう。現在も寺院で作られており、タイミングが良ければ一般向けに販売もされています。

その道明寺粉を蒸して餡を包み、桜の葉で巻いたのが道明寺桜餅。もちもちとした食感が特徴で、関西地方を中心に広まっていきました。

道明寺の糒。パッケージの「ほしいひ」の文字は豊臣秀吉の直筆といいます。

桜餅とお花見を

お花見文化の発展とともに、魅力的な2種類の味わいが生まれた桜餅からは、日本の和菓子文化の豊かさを感じますね。

桜餅には現在でも東西差があるものの、その両方が全国的に知られるようになり、和菓子店やコンビニなどで、どちらの種類も購入することができるようになっている地域も多いようです。

これからが春爛漫の季節。お酒を飲んで賑やかに楽しむお花見も良いですが、縁側で桜餅をほおばって、緑茶をすすり、のんびり桜を眺めるお花見も良いのではないでしょうか。ぜひ、どちらの桜餅も味わってみてくださいね。

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清絢

食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。

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