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あさりの味噌汁

旬のもの 2025.04.28

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は旨みたっぷりの「あさりの味噌汁」のお話です。

日差しが徐々に強くなり、潮風が心地よく頬を撫でる季節になった。あさりの旬が来た。
あさりの旬は春と秋の年2回ある。特に春のあさりは、産卵期を前に栄養をたっぷりと蓄えているため、身がふっくらとしている。旨みも増し、最も美味しい時期とされている。そして春から初夏にかけて、潮干狩りのシーズンでもある。
このころになると、幼い頃に家族と訪れた潮干狩りの風景を思い出す。

降り注ぐ太陽の光が、青い海にキラキラと映っている。手前の浜辺は沢山の人たちで賑わっていて、皆スコップやバケツを持ち、思い思いに家族で潮干狩りを楽しんでいる。
暑い日差しや磯の香り、まだ泳ぐには早い海水の冷たさもなんとなく覚えている。「こんなに近くであさりを採ることが出来るんだな」と幼心に感じていたので、家からほど近い海だったように思う。
潮が引いた後の広々とした砂浜は、いつも見る海水浴の時とは違う海の姿だ。大人も夢中になってあさりを掘る様子に、私たち子どももワクワクさせられた。

持ち帰ったあさりは、母があさりの味噌汁にしてくれた。ワカメとネギとあさりだけの、シンプルな具材だ。椀に盛る時には、カラカラと貝の殻が音を立て、期待感を膨らませてくる。さらに、自分の手で採ったあさりが食卓に並ぶとなると、なんだか誇らしげな気持ちにもなる。
ぷりっとしたあさりの身と、シャキシャキとしたネギのコントラストが楽しい。あさりからじっくりと染み出した旨みと、わかめの礒の香りが奥深さを生み、祖母の作った味噌が優しく味をまとめあげている。
シンプルながらも滋味深く、春の身体にじんわりと染み渡る味噌汁だ。
味噌汁を手に、家族で潮干狩りの様子を話しながら食卓を囲んだ夜は、とても楽しかった。

この幼いころの体験は、今の時期の日差しや空気に乗って、写真の一コマのようにふっと
蘇ってくる。家族と一緒に過ごしたこと、豊かな自然の恵みに触れられたこと、自分の手で何かを得る喜びを知ったこと。私の人生を作る上で重要で、単なる思い出以上のものなのだろう。
歳を取っても、またきっと思い出すに違いない。

子どもが産まれて初めての春、今年もあの潮干狩りのことを思い出した。母に聞いてみると、思っていたよりも家の近くの海で採れ、なんと今も潮干狩りが出来るらしい。いつか子どもと一緒に、また潮干狩りが出来たらいいなと思った。
あの時の大人たちのように、童心に返って楽しみたい。そして、旨みたっぷりのあさりの味噌汁を作って、みんなで春の食卓を囲むのだ。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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