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カササギ

旬のもの 2025.07.06

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

明日7月7日は七夕ですね。この日は、1年の中でもっとも夜空が気になる日かもしれません。織姫と彦星が会える唯一の機会で、満天の星空を期待したくなりますが、現実は残念ながらたいていは梅雨の真っ只中。曇り空を見上げて「今年もダメか...」とガッカリすることが多い気がします。

そんなロマンチックな七夕伝説に登場するのが、今回ご紹介する「カササギ」という鳥です。織姫と彦星のために、翼を重ねて橋をつくり、天の川を渡らせる役割を果たすーーまさに“愛の架け橋”となる存在です。

さて、そのカササギですが、東アジアに分布するカラスの仲間の鳥。全長は約45cm、長い尾羽が特徴で、白と黒のコントラストが美しい、スタイリッシュな姿をしています。オスとメスで見た目の違いはありません。

カササギという鳥の名前は聞いたことがあっても、実際にその姿を見たことがある人は少ないかもしれません。それもそのはず、日本では佐賀県や福岡県など、九州北部のごく限られた地域にしか生息していないからです。

写真提供:柴田佳秀

しかもこのカササギ、もともと日本にいた在来種ではないと考えられています。伝えられているところによると、16世紀末、豊臣秀吉による朝鮮出兵(文禄・慶長の役)の際に、朝鮮半島から持ち帰られ、日本に放されたと言われています。実際、文禄年間に鍋島直茂の家臣であった原十左衛門吉親が、直茂の命を受け、「朝鮮より鳥をとり来たり、本国に放つ」と記された記録が残っており、これが事実であれば、伝承は裏づけられることになります。

その後、17世紀には佐賀藩内でカササギの狩猟を禁じるお触れも出されており、当時から貴重な鳥として保護されていたことがうかがえます。18世紀初めには、カササギは「筑紫に多し」と記録されており、その頃にはすでに九州北部にしっかりと定着していたようです。

佐賀ではカササギは、「かちがらす」とも呼ばれています。これは鳴き声の「カシャカシャ」が「カチカチ」と聞こえることからのネーミングですが、豊臣秀吉が出兵した際に戦の“勝ち”につながる縁起のよい鳥としての名前でもあるのです。佐賀や柳川の武将は、戦勝祈願に相応しいとしてカササギを秀吉に献上したのかもしれません。

さて、カササギが日本に来てからすでに400年以上が経っていますが、未だに九州北部限定の鳥なのは、ちょっと不思議な気がします。空を自由に飛べるのに、なぜ他の地域へは広がらなかったのでしょうか?

その理由のひとつに、カササギがあまり長距離飛行が得意でないことが挙げられます。さらに、カササギが好むのは開けた農耕地や市街地で、樹木の多い山地にはあまり入りたがらない性質があるのです。たとえば佐賀平野は、周囲を丘陵に囲まれていて、その山を越えて外に出ることが難しかったのではと考えられています。ただし、近年その丘陵が果樹園や住宅地として開発されると、そこにもカササギが進出するようになり、少しずつ分布を広げていることがわかっています。

ところが最近、この“九州限定”だったはずのカササギが、なんと北海道で定着しているのです。1993年以降、室蘭市や登別市、白老町などで営巣が確認され、現在では苫小牧市を中心に札幌方面まで広がっています。

では、ロシアのカササギがどうやって北海道にやって来たのか? 最初に見つかったのが港町だったことから、「船に乗って運ばれたのでは?」という説があります。一方で、1990年以前からすでに北海道で目撃例があり、「実は自力で飛んできたのでは?」という説もあり、いまだに決定的な答えは出ていません。

七夕伝説では天の川に橋を架けるカササギ。瑞鳥として昔から大切にされ、九州では400年も愛されてきました。そして、今、北海道の地にも舞い降り、また、新たな歴史のページが開かれようとしています。

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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