こんにちは。俳人の森乃おとです。
オジギソウ(含羞草/御辞儀草)の苗が園芸店に並ぶ頃、まぶしい夏が到来します。オジギソウは、触ると「やめて!」とばかりに葉を閉じていき、垂れ下がってしまいます。学校教材や夏休みの自由研究にも取り上げられることが多く、子どもたちに愛される植物の一つです。
ポンポンのような可愛らしい花
オジギソウは、マメ科ネムノキ亜科オジギソウ属の植物です。原産地はブラジルを中心とした熱帯アメリカで、常緑小低木あるいは多年草。ただし寒さに弱いため、日本では沖縄などの暖地をのぞき、一般的に一年草として扱われています。
オジギソウの背丈は20~50cmほど。葉は羽状複葉(うじょうふくよう)で、葉軸の左右に小葉が鳥の羽のようにびっしりと並びます。
茎にはトゲがあり、成長するにつれ茎は木質化してトゲも鋭くなっていきます。
花期は7~10月。葉の付け根から花柄(かへい)を伸ばし、先端に毛糸でつくったポンポンのような可愛らしい淡紅色の花序をつけます。花序は直径2㎝前後の球状で、多数の花が集まって形成されています。それぞれの花は長さ2.5mmほどの鐘形。長く伸びて突き出している4本の雄しべが目立ちます。
「ミモザ」とは、本来オジギソウのこと
オジギソウの学名は“Mimosa pudica(ミモザ・プディカ)”。属名のMimosaは、古代ギリシアでパントマイムの起源となった“身振り劇”「mimos(ミモス)」より。種小名のpudicaは「内気な」を表します。軽く触れただけでも大きく動き、恥じらうように葉を閉じてしまう性質からでしょう。
英名は“Sensitive plant(繊細な植物)”、あるいは“Mimosa(ミモザ)”。刺激に敏感なことから“Touch-me-not(触らないで)”の名もあります。
ちなみに日本で「ミモザ」というと、フサアカシアなどの黄色い花を咲かせるマメ科アカシア属の仲間を指しますが、本来は誤用。ミモザとは、オジギソウのことなのです。
和名は、葉を閉じる姿がお辞儀をするように見えることから。「含羞草」の漢字表記は中国名によります。また「ネムリグサ(眠り草)」とも呼ばれます。
日本には1841(天保12)年、オランダより渡来。紀州(和歌山県)の本草学者・小原桃洞(おはら・とうどう)は、「今世間ではネムリグサ、あるいはオジギソウなどと名付け、手に取って遊んでいる」と、人々が初めて見るオジギソウに驚き、楽しんでいる様子を記しています。
オジギソウの「お辞儀」の秘密
オジギソウの葉の開閉は、葉の付け根にある葉枕(ようちん)という部分の細胞の膨圧変化によって起こる現象です。葉沈の中には水分が入っていて、通常はぴんと張っています。しかし「刺激を受けた」という電気信号が葉沈に伝わると、下部から上部へと水分が移動します。このように細胞が膨らんだり縮んだりすることで、葉が閉じたり垂れ下がったりの動きが生まれるのです。
オジギソウに神経や筋肉はありません。しかしこうした葉の運動には、動物の筋肉が動くときに使われるカルシウムイオンが関わっているとみられています。
ところで、オジギソウが葉を閉じるのは、草食性昆虫から身を守るための戦略です。バッタにかじられると、葉はすぐにどんどん動きはじめます。するとバッタは食べるのをやめて、他の場所へと移動するのだとか。足をはさまれたり、足場を失ったりとバッタなりに居心地が悪く、ストレスがかかるのかもしれません。
オジギソウの花言葉は、「繊細な感情」「感受性」「謙虚」などです。いずれも触れるとそっと葉を閉じるオジギソウの姿から生まれました。
掲句の作者である鷹女は、口語を駆使した奔放で前衛的な作風を開拓し、昭和期に活躍した俳人です。「孤高の女流」とも呼ばれ、激しい情念と繊細な感性で句を詠み上げ続けました。
思わず指を伸ばして触らずにはいられないほどに、無邪気で繊細であればこそ、眠りについたオジギソウの姿にいっそうの憂いと悲しみを覚えてしまうのです。
ところで、いったん葉を閉じたオジギソウは、光の量や周りの温度も関係しますが、15~20分ほどかけてゆっくりと元に戻っていきます。そこで何度も触れて開閉させると、オジギソウが弱ってしまうことがありますので、ご注意を。しばらくは優しく見守ってあげてくださいね。
オジギソウ(含羞草/御辞儀草)
学名 Mimosa pudica
英名 Sensitive plant, Mimosa, Touch-me-not
マメ科ネムノキ亜科オジギソウ属の常緑小低木あるいは多年草で、ブラジルを中心とした熱帯アメリカ原産。日本では一年草。7~10月、ポンポンのような球形の可愛らしい淡紅色の花序をつける。触れると葉を閉じることで知られる。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
