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ひじきの煮物

旬のもの 2025.09.15

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は、ひっそりと存在感を放つ「ひじきの煮物」についてのお話です。

家の近所に、地元の人たちに長く愛されている手作りお惣菜のお店がある。お昼の時間には定食が食べられる。メインを選んだら、副菜を3品選べるスタイルだ。こぢんまりとした店内の入り口に可愛いらしいサイズのショーケースがあって、そこに様々な形のお皿に盛られた副菜がずらりと並んでいる。中を覗き込みながら、どれにしようかと思いを巡らせるのがいつも楽しい。

女将さんとも顔馴染み。「あら、いらっしゃい!今日は何にしはる?今日はね、秋刀魚が入ってますよ」軽快な京都弁で迎えてくれる。「今日もどれも美味しそう。あ、柿の白和え出始めたんですね」なんて話しながら、副菜を選ぶ。

残り1品を悩み、私は「ひじきの煮物」を頼んだ。すると、女将さんから「庄本さん、ひじき好きよねー。大将ー、秋刀魚定食ひとつー!」と言いながら、奥の厨房へと消えていった。
席につきながら考える。何気なく選んだが、確かにそうだ。私はあれこれ悩みながらも、いつもひじきの煮物を食べている。ひじきの煮物を見つけると「あ、ひじき食べよう」と、何故か思うのだ。

ほどなくして、女将さんが定食を持ってきてくれた。メインの秋刀魚に味噌汁とごはん、そして先ほど選んだ3つのお惣菜が可愛い小鉢にちょこんと入れられている。
ひじきの煮物は決して主役とは言えない一見地味な副菜だ。しかしやはりその存在感は唯一無二で目を惹く。この黒い一皿があるだけで、食卓全体がぐっと引き締まる。鮮やかな人参の朱色に、ふっくらとした黄色の油揚げ、そしてつるりとした白い大豆が、更にひじきを美味しそうに際立たせている。

「いただきます」私は、ほかほかのごはんの上に、黒くつやつやと輝くひじきの煮物を乗せ、口に運んだ。
ひじきに、だしがじっくりと染み込んでいて、ふっくらとやわらかい口当たり。醤油と砂糖の甘じょっぱい香りがふわりと口の中に広がる。噛むたびに「そうそう、この味。この味」と、自然と笑みがこぼれる。

「やっぱり、ひじきの煮物っていいわぁ」空腹を主張していお腹も、やっと落ち着いたようだ。
しばし椅子にもたれて、余韻を味わっていたところで、ふと気がつく。
「そうか、私はひじきの煮物を食べると安心するのかも」

ひじきは海の恵みが詰まった乾物だ。カルシウム・鉄分等のミネラル、食物繊維が豊富。日々の健康を支えてくれる。ひじきの煮物には、派手さはなくとも「家族が健やかに過ごせるように」と、作り手の思いが添えられているように思う。
私はひじきの煮物を食べる時、素朴ながらも滋味深いその味わいに、家に帰ってきたかのような安らぎを感じ取っているのかもしれない。

今日9月15日は「ひじきの日」だそう。由来は、敬老の日が近いことと、「ひい(1)じ(2)き(5)」の語呂合わせから、ひじきを食べて長生きしてほしいという願いが込められているという。
メインにはなれないかもしれないけれど、ふと気づくと無性に食べたくなる。食卓の片隅で私たちを見守ってくれている、そんな存在のひじき。
今日は、ひじきの煮物を味わうのもいいかもしれない。きっと、体と心を満たしてくれる、優しい時間があるはずだ。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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