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ノジギク

旬のもの 2025.11.11

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立冬も過ぎ、露霜に遭っても野山や路傍でなお咲き誇り、景を彩ってくれるのがノギク(野菊)の仲間です。「野菊」とは野生の菊を表す総称で、可憐な白い花を咲かせるノジギク(野路菊)は、その代表種。植物学者の牧野富太郎博士(1862~ 1957年)が命名し、愛した花として知られています。博士をモデルにしたNHK「朝ドラ」の『らんまん』にも登場しました。

西日本を代表する白い野菊

ノジギクは、キク科キク属の多年草。日本固有種で、兵庫県以西の本州の瀬戸内海、四国、九州などの太平洋側近くの海岸沿いに多く自生します。西日本を代表する野菊であり、自生の少ない関東では、ノジギクを目にする機会はあまりありません。
草丈は50~90㎝、よく分岐して群生します。砂利の中でも育つほどに丈夫な性質を持ち、地下茎を伸ばして増えていきます。厚めの葉は互生し、長さ3~5㎝、幅2~4㎝の広い卵形。半ばまで3~5つに裂けて羽根状になり、裏面に毛が密生して灰白色になります。

花期は10~12月。茎や枝先に径3~4㎝の白い花を3個ほど咲かせます。キク科の植物に共通する特徴として、花弁のように見えるものは舌状花で、13~20個。花の中心には黄色い筒状花が多く集まり、白い舌状花によく映えて清楚な印象を生み出します。

舌状花は咲きすすむと淡い紅色に変わりますが、まれに淡い黄色になるものがあります。
野菊の代表種にはノジギクのほか、同属のリュウノウギク(竜脳菊)、そして花色が薄紫のシオン属のヨメナ(嫁菜)やノコンギク(野紺菊)があります。

ノジギクとリュウノウギクは、とてもよく似た白い花を咲かせますが、違いはまず、リュウノウギクは福島県から山口県にかけての内陸部に分布すること。葉の基部はクサビ形をしていて、茎先に咲く花の数が1個であること。最後に、リュウノウギクの葉や茎をもむと、名前の由来ともなったすがすがしい香りがすることで見分けることができます。

博士の愛した野路に咲く花

ノジギクは、牧野富太郎博士と関わりが深い植物です。
1884(明治17)年、博士が22歳の時、故郷高知県の吾川村(あがわむら)の野路で見つけたことから、「野路菊」と命名されたのは、有名なエピソード。名付けた後に、野山ではなく海岸沿いに見られる植物であることが分かったそうですが、「ノジギク」という名には何ともいえない風情が漂います。

その後、兵庫県姫路市大塩町(おおしおちょう)を訪れた際、博士はノジギクの大群落を発見。ノジギクは潮風のあたる苛酷な環境を好むことから、瀬戸内海近くの製塩が盛んだったこの地域に多く自生していたのでしょう。博士は「日本一の群落地」と評し、ノジギクの咲く頃になると毎年この地を訪問したことにちなみ、1954 (昭和29) 年、兵庫県の「郷土の花」としてノジギクが選ばれ、県の花に指定されました。

1957(昭和32)年まで製塩が行われ、塩田の間には水路があり、その土手にノジギクが群生し真白に咲き乱れている景が見られたそうですが、やがて塩田の廃止や開発などの環境変化から、ノジギクの自生数は激減。大塩地区の地元の有志によって保護・保全活動が長年続けられ、現在は「のじぎくの里公園」などで見事な群生を見ることができます。

花言葉は「真実」「高潔」

ノジギクの花言葉は、その清らかな白い花姿から生まれました。野にあり、飾らず、凛として咲くノジギクは、花を生涯愛し続けた牧野富太郎博士の「真実」とも重なります。派手さはなく素朴な花ですが、嘘偽りのない高潔な魂がそこにはあります。
さて、俳句の世界では「野路菊」は「野菊」の子季語(こきご)。子季語とは、親となる季語に関連する語で、親季語と同じ季節を表します。「野菊」は秋の季語ですが、「野路菊」を詠んだ句に次のようなものがあります。

野路菊も 身辺もまた 晴れ渡り

作者は後藤比奈夫(ごとう・ひなお/1917~2020年)。ノジギクの清浄な風情が作者の心情と重ね合わされ、晩秋の澄んだ青空のようだと描き出されています。

ノジギク(野路菊)

学名: Chrysanthemum japonense
英名:Japanese wild chrysanthemum
キク科キク属の多年草。日本固有種で、兵庫県以西の本州の瀬戸内海、四国、九州などの太平洋側近くの海岸沿いに多く自生。西日本を代表する野菊であり、兵庫県の県花。花期は10~12月。茎や枝先に径3~4㎝の白い花を3個ほど咲かせる。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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